ソウルの演劇の聖地、テハンノ(大学路)がいま、熱い熱気に包まれています。その中心にあるのは、韓国演劇界の「生ける伝説」とも呼ばれる俳優シン・グ(신구)の新作舞台です。
現在90歳という最高齢の現役俳優でありながら、「舞台に立つことが生きている理由だ」と語るシン・グ。彼を中心に、韓国ドラマや映画でお馴染みの実力派俳優たちが集結した舞台「フランスの金庫(불란서 금고)」の模様を詳しくお伝えします。
■ 伝説の劇作家チャン・ジンが10年ぶりに放つ「ブラックコメディ」
今回の舞台「フランスの金庫」を手掛けるのは、映画『トンマッコルへようこそ』などの脚本で知られる鬼才チャン・ジン(장진)です。彼が演劇作品を書き下ろし、演出まで務めるのは実に10年ぶりのこと。
物語の舞台は、ある銀行の地下にある秘密の金庫。夜12時、すべての電気が消えた瞬間に金庫を開けるという完璧な計画を胸に、目的も素性も異なる5人の男女が密室に集まります。
シン・グが演じるのは、金庫のダイヤルを回す大役を担う「盲人の老人」。彼を支えるのは、ソン・ジル(성지루)、チャン・ヒョンソン(장현성)、チョン・ヨンジュ(정영주)、チャン・ヨンナム(장영남)、チェ・ヨンジュン(최영준)、クム・セロク(금새록)といった、主役級の俳優たちです。これほど豪華な顔ぶれが小劇場の舞台に並ぶのは、韓国でも滅多にない贅沢な光景といえるでしょう。
■ 90歳のシン・グが見せた「巨木」のような圧倒的存在感
公演が行われたソウル・恵化(ヘファ)にある劇場周辺は、平日にもかかわらず、伝説のステージを一目見ようと集まった観客で溢れかえっていました。
幕が上がると、最初に口を開いたのはシン・グ演じる老人でした。「北壁(プッピョク)!」と叫ぶその第一声に、客席には戦慄が走りました。
「北壁に登れば下の世界がよく見えた。雲も足元にあるから、恐れるものなどなかった……」
この「北壁」とは、欲望の果てにある、最も高く、同時に最も危うい場所を象徴しています。
実際のシン・グは足腰が思わしくなく、公演中も常に杖をつきながらゆっくりと舞台を歩きます。しかし、力を抜いてセリフを吐いているはずなのに、その姿はまるで草原にそびえ立つ巨木のよう。いざ声を張り上げる瞬間には、正確な発声と響きで「名不虚伝(ミョンブルホジョン=名声に違わぬ実力)」であることを証明し、観客を圧倒しました。
韓国には古くから「儒教的価値観」が根付いており、年長者や先駆者に対する「リスぺクト(尊敬)」の念が非常に強い文化があります。舞台上の後輩俳優たちが放つエネルギーは、まるで中心にいるシン・グに対して「私たちも精一杯頑張っています!」と報告しているかのような、熱い敬意に満ちていました。
■ 実力派俳優たちの競演と、心に刺さるメッセージ
チャン・ジン演出家のお家芸といえば、予測不可能な「セリフの妙」が光るコメディです。
ドラマ『ヴィンチェンツォ』や『私たちのブルース』で深い演技を見せたチェ・ヨンジュンは、今作では軽妙な動きで笑いを誘い、チャン・ヒョンソンは真面目さと滑稽さを行ったり来たりする絶妙なバランスを披露。また、個性派女優チャン・ヨンナムは、独特のトーンでキャラクターの魅力を引き上げました。
特に注目を集めたのが、今回が初舞台となるクム・セロクです。ドラマ『愛と、利と』などで繊細な演技を見せてきた彼女が、ベテラン勢に囲まれながらも銀行員役として堂々とした熱演を見せ、作品に爽やかな風を吹き込みました。
物語の終盤、老人は語ります。「フランス人たちは金庫の中に『芸術』を入れたんだ」と。
欲に目がくらんだ人々が金庫を開けた先に見たものは何だったのか。そして、シン・グ自身の「人生の金庫」には何が入っているのでしょうか。
インタビューで「もし金庫があったら何を入れたいか」と問われたシン・グは、こう答えました。
「入れるものなんて何もない。むしろ欲を捨てたい。身軽に、未練なく去ることができれば、それで十分だ」
90歳という年齢を超越して輝き続ける彼の言葉は、観客の心に深い余韻を残しました。韓国エンタメの真髄は、こうした「伝説」が今もなお現役で走り続け、それを若い世代が全力で支える絆にあるのかもしれません。
レジェンド俳優シン・グが命を削るようにして立つ舞台、皆さんはもし自分だけの「秘密の金庫」があるとしたら、何を大切にしまっておきたいですか?ぜひコメントで教えてくださいね。
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