今、韓国のドラマ界である「時代」が再び脚光を浴びています。それは、韓国経済が最大の試練に直面した1997年の「IMF経済危機」です。
最近、この激動の時代を背景にした2つのドラマが韓国で話題を集めています。一つは、当時の商社マンたちの奮闘を描き、90年代のソウル方言やファッション、音楽でノスタルジーを誘った『台風商事(テプンサンサ)』。そしてもう一つ、今まさに視聴者の心を掴んでいるのが、レトロ・オフィス・コメディと銘打たれた『アンダーカバー・ミス・ホン(언더커버 미쓰홍)』です。
今回は、このドラマを通して、日本人ファンにも知ってほしい韓国の歴史的背景と、当時のオフィス文化のリアルな姿を紐解いていきましょう。
■「汝矣島の魔女」が20歳の新入社員に?異色の潜入捜査劇
物語の主人公は、証券監督院(日本の金融庁に近い組織)の調査官、ホン・グンボ(홍금보)。名前を聞いてピンときた方は、かなりの香港映画通かもしれません。かつて韓国でも絶大な人気を誇ったアクション俳優サモ・ハン・キンポー(韓国語読みでホン・グンボ)と同じ名前を持つ彼女は、不正を許さない剛直な性格から「汝矣島(ヨイド、ソウルの金融街)の魔女」と恐れられていました。
彼女が追うのは、大手「ハンミン証券」を巡る巨大な株価操作と1000億ウォン(約110億円)を超える裏金疑惑。しかし、核心に迫ろうとした矢先、協力者だった証券会社の社長が謎の交通事故で急逝してしまいます。
真相を闇に葬らせないため、ホン・グンボは驚きの行動に出ます。35歳のキャリアウーマンという身分を隠し、20歳の妹の名前を借りて、ハンミン証券の「高卒新人社員」として潜入捜査を開始するのです。35歳が20歳になりすますという設定は少し無理があるようにも見えますが、そのギャップをコミカルに、かつ可愛らしく演じる姿が視聴者の心を掴んでいます。
■「ミス・ホン」と呼ばれた時代…今では考えられないオフィス文化
ドラマの舞台となる90年代後半は、韓国がアナログからデジタルへと急速に移行していた時期です。給料袋が手渡しから口座振替に変わり、社内ネットワーク(イントラネット)が構築され始めた頃。当時の株情報は「PC通信(インターネット普及前の通信サービス)」の掲示板でやり取りされていました。
ここで日本人のファンが驚くかもしれないのが、当時の女性社員たちの扱いです。タイトルにある「ミス・ホン」の「ミス(Miss)」という呼称。現代の韓国で女性を「ミス・〇〇」と呼ぶことは、相手を低く見る、あるいは軽んじるニュアンスが含まれるため、タブーに近い表現となっています。
劇中では、有能なホン・グンボが新人「ミス・ホン」として、上司からコーヒー淹れ、タバコや弁当の買い出し、さらには靴磨きまで頼まれるシーンが描かれます。当時の韓国では、どんなに仕事ができても、女性社員は「お茶汲み」などの雑用をこなすのが当たり前という風潮がありました。この描写は、当時の理不尽な社会を生き抜いた韓国の女性たちの共感を呼んでいます。
また、劇中で流れる「コーヒー、コピー、鼻血(コピ)」という歌(※「鼻血」と「コーヒー」の韓国語の発音が似ていることにかかっている)は、過酷な労働環境を皮肉った当時のヒット曲。こうした細かな演出が、40代以上の視聴者には懐かしく、若い世代には新鮮な驚きを与えています。
■IMF危機の足音と、守るべき「信頼」
物語が進むにつれ、1997年末のIMF経済危機の足音が近づいてきます。企業が次々と倒産し、国全体がパニックに陥る中、私利私欲に走る特権階級と、必死に生きる庶民の対比が浮き彫りになります。
「食堂で腐った食べ物を売っていいんですか?証券会社が、今すぐ潰れてもおかしくない企業の株を売っていいんですか?」
ホン・グンボが放つこの言葉は、現代の金融犯罪に対する怒りとも重なり、視聴者の胸を打ちます。株価操作は資本主義の根幹である「信頼」を壊す犯罪。当時も今も変わらない社会の歪みに、彼女がどう立ち向かっていくのかが最大の見どころです。
また、潜入先の社員寮で出会う同僚女性たちとの「女の連帯」も、ドラマに温かな彩りを添えています。厳しい時代だからこそ助け合う彼女たちの姿は、殺伐としたビジネスドラマの中で唯一の癒やしとなっています。
歴史の波に翻弄されながらも、ユーモアと情熱を忘れない「ミス・ホン」。彼女の潜入捜査がどのような結末を迎えるのか、そしてあの歴史的な危機をどう乗り越えていくのか。日本でも配信が待たれる注目作です。
当時のファッションや不便だけど温かかったガジェット類など、レトロな雰囲気も見どころの一つ。皆さんは、今のスタイリッシュな韓国ドラマと、こうした90年代の泥臭い魅力があるドラマ、どちらが好きですか?ぜひコメントで教えてくださいね!
出典:https://www.catholicnews.co.kr/news/articleView.html?idxno=34812
コメント