韓国エンタメの魅力といえば、中毒性の高いK-POPや、緻密なストーリーのドラマ・映画だけではありません。実はソウルの中心地で脈々と受け継がれてきた「演劇」の世界も、今、非常に熱い注目を浴びています。
特に最近、韓国で話題を呼んでいるのが、一人の俳優が舞台を独占して演じ切る「モノドラマ(一人劇)」の祭典です。2026年3月17日から4月26日まで開催される「第3回ソウル国際モノドラマフェスティバル」では、私たちの日常に潜む「刹那の瞬間」や、現代韓国を象徴する「オタ活文化」をテーマにした興味深い作品が並びます。
今回は、日本人の韓流ファンなら思わず身を乗り出してしまうような、このフェスティバルの注目ポイントを詳しく紐解いていきましょう。
■「0.5秒」のくしゃみに閉じ込められた無限の世界
今回のフェスティバルで最も実験的で注目を集めているのが、劇団「モムソリマル(몸소리말)」のチョ・アラ(조아라)が披露する演劇「朝がある(아침이 있다)」です。
この作品のテーマは、なんと「一人の少女がくしゃみをする0.5秒という刹那の瞬間」。その極めて短い時間の中に、どれほど多くの世界が存在し得るのかを舞台上で描き出します。
実はこの作品、日本の劇作家・小説家である柴幸男(しば ゆきお)氏の同名小説が原作。日本の繊細な感性と、韓国演劇界のダイナミックな演出が融合した日韓交流の側面も持つ作品なのです。演出を担当するマ・ドゥヨン(마두영)氏は、「くしゃみをする瞬間を起点に、現在と近い過去、さらに遠い過去という3つの視点で物語が進行します」と語っています。
驚くべきは、舞台上の生身の俳優だけでなく、映像の中に登場する人物や、その映像の中の映像で演じる人物まで、すべて同じ一人の俳優が演じ分けるという点です。これは、たった一人で舞台を支配するモノドラマならではの醍醐味。俳優の圧倒的な表現力に圧倒されること間違いありません。
■BTSファンは共感必至?「大学教授のオタ活」を温かく描く
もう一つ、K-POPファンなら絶対に見逃せない作品が、劇団「アリラン(아리랑)」の「トクジルの理解(덕질의 이해)」です。
タイトルの「トクジル(덕질)」とは、日本語の「オタ活」に近い言葉。もともとは「オタク」を意味する韓国語「オドク(오덕)」に、特定の行動を指す接尾辞「ジル(질)」を合わせた造語で、今では「自分の好きなものを深く掘り下げること」「推しを熱狂的に応援すること」というポジティブな意味で広く使われています。
この作品の主人公は、なんとアイドルファンクラブで活動する現役の大学教授。世間的には「立派な職業」とされる教授が、全力で推しを愛する姿を通じて、誰かを愛するという行為がいかに人生を支え、世界と繋がる手段になるのかを温かい視線で描いています。
脚本を担当したべ・セアム(배새암)氏は、「ファンダム(熱心なファン層)の中で起こる愛や連帯、自己表現、そして世代を超えた共感を伝えたかった」と明かしています。さらに驚きなのが、主演を務める俳優のキム・ドンスン(김동순)さん本人が、実際にBTS(防弾少年団)のファンクラブ「ARMY(アーミー)」として活動しているという点です。
実体験に基づいたリアルな「推しへの愛」がステージ上でどう表現されるのか。ファンなら誰もが一度は感じる「推しがいてくれてよかった」という救いの感情を、劇場で分かち合うことができるはずです。
■韓国小劇場の聖地「三一路倉庫劇場」が繋ぐ歴史
今回のフェスティバルの会場となる「三一路倉庫劇場(삼일로창고극장)」についても、少し触れておきましょう。
ここは1970年代、韓国で「小劇場運動」の中心地として誕生した伝説的な場所です。当時の韓国では軍事政権下での表現規制もありましたが、アーティストたちはこの小さな劇場で自由な表現を追求し続けました。日本でいうところの、アングラ演劇の聖地や老舗の小劇場のような、非常に歴史的価値の高いスポットです。
一時は閉鎖の危機に追い込まれたこともありましたが、2024年からその伝統を継承するためにこの「国際モノドラマフェスティバル」がスタートしました。今回の第3回大会では、韓国国内の作品だけでなく、北マケドニア、インド、スリランカ、ドイツ、ルーマニアなど、世界各国のユニークな一人劇も招待されています。
ちなみに、日本とドイツの共同制作作品である「知覧からの手紙」も上演される予定です。国境を超えて、俳優の「身一つ」の演技だけで対話するこの祭典は、言葉の壁を超えて心に訴えかける力を持っています。
フェスティバルで最優秀作に選ばれた作品には、ポーランドでの演劇祭への参加機会や制作費が支援されるなど、若手アーティストの海外進出を後押しする役割も担っています。
■演劇が教えてくれる「愛すること」の尊さ
今回紹介された作品に共通しているのは、「ほんの一瞬」や「特定の誰かを想う気持ち」といった、目に見えにくいけれど確かに存在する大切な価値にスポットライトを当てていることです。
くしゃみ一回の間に広がる無限の宇宙を想像したり、アイドルの応援を通じて自分の人生を肯定したり。演劇という鏡を通じて、私たちは自分自身の内面を見つめ直すことができるのかもしれません。
皆さんがもし、0.5秒の間に何かを考えられるとしたら、真っ先に思い浮かぶのは何ですか?また、人生を支えてくれるほどの「トクジル(推し活)」に出会えていますか?
舞台の上で繰り広げられる熱いエネルギー。もしこの時期にソウルを訪れる機会があれば、ドラマのロケ地巡りだけでなく、こうした小劇場の扉を叩いてみるのも、新しい韓国の魅力に出会う素敵な方法かもしれませんね。
皆さんの「人生を変えた推し」や「忘れられない舞台」について、ぜひコメントで教えてください!
出典:https://www.yna.co
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