世界中で愛されるK-POP。今や韓国のアーティストが海外で公演を行うのは当たり前の光景となりましたが、その華やかなステージの裏側で、今までにない「文化的な摩擦」が起きているのをご存知でしょうか。
2026年1月、マレーシアで開催されたある人気バンドのコンサートをきっかけに、韓国と東南アジアのファンの間で激しい感情の対立が巻き起こりました。今回は、この事件を入り口に、グローバル化するK-POPファン文化が直面している課題と、私たちが知っておくべき背景について紐解いていきましょう。
■きっかけは1台の「大砲カメラ」?マレーシア公演で起きた異変
事件の舞台となったのは、2026年1月31日にマレーシアのクアラルンプールで開催されたデイシックス(DAY6 / 4人組ボーイズバンド)のコンサートでした。
事の発端は、会場にいた一人の韓国人ファンが、いわゆる「デポカメラ(대포 카메라 / 大砲カメラ)」と呼ばれる超望遠レンズ付きの一眼レフカメラを持ち込み、無断で撮影を行っていたことでした。
多くの海外公演では、著作権保護や他のお客さんの観覧の妨げになるという理由で、プロ仕様の撮影機材の持ち込みを厳しく制限しています。この韓国人ファンが警備員に摘発された際、その様子を現地のファンがSNSに投稿したことで、騒動は一気に拡大しました。
ネット上では「ルールを守らないファン」への批判が相次ぎましたが、これが単なるマナー違反への指摘に留まらず、韓国のネットユーザーと東南アジアのネットユーザーの間で、互いの国民性を否定し合うような「反韓論争」へと発展してしまったのです。
SNS上では、東南アジアのユーザーたちが「SEA(東南アジア)」と「siblings(兄弟)」を組み合わせたハッシュタグ「#SEAblings」を使い、連帯を強調して対抗する動きも見られました。たった一人の撮影マナー問題が、なぜここまで大きな国際的対立にまで膨らんでしまったのでしょうか。
■韓国独自のファン文化「ホームマ」とグローバルマナーの衝突
今回の騒動の背景には、K-POP特有のファン文化である「ホームマ(홈마)」の存在があります。
「ホームマ」とは「ホームページマスター」の略で、特定のアイドルを追いかけ、高画質な写真や動画を撮影して自身のサイトやSNS(旧TwitterのXなど)で共有するファンのことです。彼女たちが発信する美しい写真は、新規ファンを獲得したり、アイドルの人気を維持したりする上で、ある種「宣伝」のような重要な役割を担ってきました。
韓国の音楽番組や一部のイベントでは、こうした撮影が「黙認」されるケースも少なくありません。しかし、その感覚をそのまま海外公演に持ち込んでしまうことが、大きなトラブルの火種となっています。
韓国の「ホームマ」文化と日本の違い
韓国では、事務所側も「ファンによる拡散」をプロモーションの一部として活用してきた歴史があり、撮影に対してグレーゾーンな対応をすることがあります。一方、日本のコンサートは「撮影禁止」が徹底されており、違反者には厳しい処分が下されるのが一般的ですよね。今回のマレーシアのケースも、日本と同様に「会場のルールが絶対」という文化圏だったため、韓国流の「ホームマ」文化が「傲慢なマナー違反」と映ってしまったのです。
摘発された韓国人ファンは後にSNSで「カメラを返却し、周囲に謝罪した」と釈明しましたが、一度火がついたSNSの炎上は止まりませんでした。
■SNSが加速させる「拡大効果」と心の溝
この問題について、韓国外国語大学のイム・デグン(임대근)教授は「K-POPが世界に広まる過程で、異なる文化が接触し、摩擦が起きるのは自然な現象でもある」と指摘しています。ある文化が別の地域に浸透する際、現地文化が自分たちの価値観を守ろうとする「防衛反応」を示すことがあるというのです。
さらに、今回の対立を深刻化させたのがSNSのアルゴリズムです。
K-POPファンのネットワークは世界最強とも言われますが、SNS上では一部の過激な意見が目立ちやすく、それが「その国全体の意見」であるかのように錯覚してしまう「拡大効果」が起こりやすいのです。
実際に、韓国の旅行コミュニティでは「最近、東南アジアで韓国批判が多いと聞くけれど、旅行に行っても大丈夫でしょうか?」という不安の声が上がり、逆に東南アジアのユーザーからも「韓国へ行くのが怖い」という投稿が見られるようになりました。オンライン上の小さな火種が、現実の世界に住む人々の感情にまで影を落とし始めているのです。
■「文化強国」として、いま求められる姿勢とは
かつて2017年に中国で起きた「限韓令(한한령 / 韓流制限令)」は政治的な背景によるものでしたが、今回のマレーシアのケースは、ファン同士の「マナーと認識の違い」から始まったものです。
ハ・ジス(하지수)代表はこのコラムの中で、「真の文化強国とは、単にコンテンツが売れるだけでなく、周辺諸国の文化や感情を理解し、尊重する姿勢が必要だ」と説いています。
K-POPが真にグローバルな文化として定着するためには、私たちファンも「自分の国の常識」が「世界の常識」ではないことを再認識する必要があるのかもしれません。アーティストを輝かせるための情熱が、現地のファンを傷つけたり、国同士の対立を生んでしまったりしては、推し(アーティスト)も悲しむはずですから。
楽しいはずのコンサートが、誰かにとって苦い思い出にならないように。お互いの文化をリスペクトし合う気持ちこそが、これからのK-POPを支える鍵になりそうです。
日本のコンサートでも最近は「撮影OK」の時間が設けられることが増えてきましたが、皆さんは公演中のスマホ撮影やデポカメラについて、どう感じていますか?「推しの姿を綺麗に残したい」という気持ちと「目の前のパフォーマンスに集中したい」という気持ち、皆さんの意見をぜひコメントで教えてください!
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