韓国の子供向け番組と聞いて、皆さんはどんなイメージを思い浮かべますか? カラフルなセットに、元気なお兄さんやお姉さん、そして可愛らしいキャラクターたち。そんな「王道」のスタイルを守りつつ、今、韓国の教育現場に一石を投じている一人のプロデューサーが注目を集めています。
その主役は、韓国を代表する教育放送局EBS(日本でいうNHK Eテレのような存在)のイ・ジヒョン(이지현)PD。彼女は、30年以上続く長寿番組『ディンドンデン幼稚園(딩동댕 유치원)』(韓国版「おかあさんといっしょ」とも言える国民的幼児番組)に、それまでの常識を覆す「多様性」を持ち込んだ人物として知られています。
そんなイ・ジヒョンPDが次に手掛けるのは、6人の子供たちが人生の難問について議論する番組『小さな哲学者(어린 철학자)』。今回は、韓国の教育番組がなぜ今、大人たちの心まで揺さぶっているのか、その核心に迫る彼女のインタビューを、日韓の文化的背景と共にお届けします。
■ 障害や多文化……「現実の世界」を子供たちに見せる勇気
イ・ジヒョンPDの名が広く知られるようになったきっかけは、『ディンドンデン幼稚園』にこれまでにない個性豊かなキャラクターを登場させたことでした。
多文化家庭(国際結婚などの家庭)出身のマリ(마리)、自閉スペクトラム症を持つビョル(별이)、そして車椅子で生活するハヌル(하늘이)。これまでの子供番組ではあまり触れられてこなかった「多様な背景を持つ子供たち」が、当たり前のように画面の中で一緒に遊ぶ姿は、韓国社会に大きな衝撃と感動を与えました。
韓国は今、急速に多文化共生社会へと変化していますが、同時に競争社会ゆえの偏見や、特定の場所から子供を排除する「ノキズゾーン(子供の立ち入りを制限する店舗や施設)」といった社会問題も抱えています。イ・ジヒョンPDは、番組を通じてこうした「現代の痛み」や「タブー視されていた性教育」についても真正面から切り込んできました。
「子供たちが自ら主役となって声を上げられる場所を作りたい」。そんな彼女の信念は、新作『小さな哲学者』でさらに深まっています。
■ 台本なし、演出なし。子供たちの「生の言葉」が大人を教える
新番組『小さな哲学者』は、毎週水曜日の朝に放送されています。驚くべきは、その制作手法です。一般的な子供番組のように、制作陣が用意したセリフを子供たちに言わせることは一切ありません。
大人のスタッフはセットの裏に隠れ、壁に開けた小さな穴からカメラのレンズを向けるだけ。子供たちは、提示された哲学的なテーマについて、自由奔放に意見を交わします。
イ・ジヒョンPDは、制作の裏側をこう語ります。
「実は、ものすごく非効率な方法で撮っているんです。番組の最初と最後に流すアニメーションは、子供たちの討論の結果を受けてから、結末を書き換えて制作しています。アニメチームからは『先に結末を決めてくれ』と泣きつかれますが(笑)、子供たちが対話を通じて考えを変えていく過程こそが重要なんです」
例えば、「成功した有名人の脳を移植してもらえるなら?」という問いに対し、ほとんどの子供たちは「拒否する」と答えたそうです。「お父さんやお母さんとの大切な思い出を失いたくないから」「一攫千金ではなく、自分の力で成功したいから」。
こうした子供たちの純粋で、かつ鋭い洞察に満ちた言葉に、見ている大人がハッとさせられる。それがこの番組の最大の魅力であり、イ・ジヒョンPDが仕掛ける「静かな革命」なのです。
■ 日本の教育番組から受けた刺激と、韓国社会への願い
興味深いことに、イ・ジヒョンPDはインタビューの中で、日本のNHKが主催する国際コンクール「日本賞(Japan Prize)」の審査員を務めた際のエピソードにも触れています。
「日本の公共放送で、LGBTQ+(性的マイノリティ)の若者の日常を追うドキュメンタリーや、コンドームの指人形を使って性教育を行う番組がレギュラー放送されているのを見て驚きました。韓国ではまだ、障害を持つ子供が出演すると『あの子は子役が演じているのか?』といった書き込みがされる段階ですから」
彼女は、子供を「守るべき未熟な存在」としてだけ見るのではなく、「一人の独立した人格」として尊重する文化が韓国社会に根付くことを願っています。
「大人たちが変わることで、子供たちが生きやすいシステムを作らなければなりません。だから私は、この番組を保護者の方々にも一緒に見てほしいと思っています。私たちがかつて受けた古い教育をアップデートし、子供たちが自分の権利を堂々と主張できる社会にしたいのです」
■ さいごに
かつて私たちが子供の頃に見ていたテレビ番組は、どこか遠いキラキラした世界の話だったかもしれません。しかし今、イ・ジヒョンPDが描こうとしているのは、「現実の世界で、自分らしく生きる子供たち」の姿です。
教育番組という枠を超え、社会のあり方を問い直す彼女の挑戦。韓国エンタメのパワーは、ドラマやアイドルだけでなく、こうした教育の現場でも熱く燃え上がっています。
皆さんは、自分の子供時代に「こんな番組があったら良かったな」と思うことはありますか? また、今の子供たちにどんなメッセージを伝えたいですか? ぜひ皆さんの想いをコメントで聞かせてくださいね!
出典:http://www.cine21.com/news/view/?mag_id=109561&utm_source=naver&utm_medium=news
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