日本の韓流ファンの皆さんのなかには、大好きな俳優やアイドルの出演をきっかけに、韓国までミュージカルを観に行く「観劇遠征」を経験したことがある方も多いのではないでしょうか。圧倒的な歌唱力はもちろんですが、韓国ミュージカルのもう一つの大きな魅力は、まるで映画を観ているかのような壮大なスケール感とドラマチックな演出にあります。
今、韓国の公演界で「大型創作ミュージカルの旗手」として最も注目を集めている人物がいます。それが演出家のワン・ヨンボム(왕용범)氏です。彼の名前を知らなくても、彼が手掛けた作品リストを見れば、誰もが「ああ、あの名作の!」と膝を打つはずです。
今回は、韓国ミュージカルを世界水準へと押し上げた演出家ワン・ヨンボム氏の軌跡と、彼が創り出す「大パノラマ」の世界をご紹介します。
■ アイドルファンも虜にする「韓国型創作ミュージカル」の父
韓国では、海外の人気作品をそのまま持ってくる「ライセンス公演」だけでなく、韓国独自の感性で脚本や音楽を作り上げる「創作ミュージカル(창작뮤지컬)」が非常に盛んです。ワン・ヨンボム氏は、まさにこの創作ミュージカルの規模を拡大し、エンターテインメント性を極限まで高めた第一人者として知られています。
1991年に俳優としてデビューした彼は、舞台を知り尽くした経験を活かし、緻密な動線と映画的な場面転換を武器に演出家としての才能を開花させました。彼の作風の最大の特徴は、華やかな舞台装置と、観客を一瞬も飽きさせないスピーディーな展開です。
彼を一躍スター演出家にしたのが、2009年の『三銃士(삼총사)』と『ジャック・ザ・リッパー(잭 더 리퍼)』でした。
『三銃士』はアレクサンドル・デュマの名作をベースに、ダイナミックな剣術アクションと軽快な音楽を融合させ、日本でも何度も上演されるほどの人気を博しました。また、19世紀ロンドンの未解決事件を追う『ジャック・ザ・リッパー』は、スリリングな物語と強烈なロック音楽が話題を呼び、韓国創作ミュージカルとして初めて日本に進出し、K-ミュージカルブームの火付け役となりました。
韓国のミュージカル界では、実力派俳優だけでなく、SUPER JUNIOR(スーパージュニア)のキュヒョン(규현)さんや、東方神起(とうほうしんき)のメンバーなど、多くのトップアイドルが主演を務めることが一般的です。ワン・ヨンボム氏の作品は、彼らアイドルの持つ華やかさを最大限に引き出しつつ、本格的な演劇としての重厚感も兼ね備えているのが特徴です。
■ 伝説の傑作『フランケンシュタイン』と『ベン・ハー』
ワン・ヨンボム演出の集大成とも言えるのが、2014年に初演された『フランケンシュタイン(프랑켄슈타인)』です。メアリー・シェリーの古典を大胆に再構成し、「人間とは何か」という重いテーマを、狂気と悲しみ、そして圧倒的な歌唱ナンバーで描き出しました。
この作品で特に話題となったのが、まるで映画のセットのような巨大な実験装置と、俳優たちの熱演です。韓国一の歌唱力を持つと言われるパク・ウンテ(박은태)さんらが演じた「怪物」の悲哀は、観客の涙を誘いました。昨年には、キュヒョンさんやパク・ウンテさんが出演した10周年記念公演のライブ映像が韓国の映画館で公開されるなど、その人気は衰えるどころか、伝説の域に達しています。
さらに2017年には、歴史大作『ベン・ハー(벤허)』を発表。古代ローマを舞台にしたこの作品のハイライトは、なんといっても「戦車レース」のシーンです。舞台上に実物大の馬の模型8体と2台の戦車が登場し、照明と映像を駆使して再現されたレースシーンは、観客が思わず身を乗り出すほどの迫力でした。
こうした「目に見える驚き」と「胸に迫る感情」の両立こそが、ワン・ヨンボム氏が提唱する「大パノラマ」の正体です。韓国には伝統的に「恨(ハン)」という、悲しみや悔しさを昇華させる独特の感情文化がありますが、慶熙(キョンヒ)大学のチ・ヘウォン(지혜원)教授は「ワン・ヨンボム氏は、韓国的な伝統に固執するのではなく、西欧的なスタイルを韓国の感性で巧みに解釈し、世界に通用する大型エンターテインメントに仕立てる天才だ」と評しています。
■ LEDパネル1000枚!進化し続ける演出マジック
ワン・ヨンボム氏の挑戦は止まりません。2019年には、チョウ・ユンファ(주윤발)さん主演の名作香港映画を舞台化した『男たちの挽歌(영웅본색)』に挑みました。
この作品で彼が取り入れたのは、最新のデジタル技術です。1000枚以上のLEDパネルを舞台全体に配し、香港の煌びやかなネオン街や、雨の降る港、激しい銃撃戦をリアルタイムの映像で表現しました。舞台でありながら、まるで映画館でアクション映画を観ているかのような錯覚に陥る演出は、新しいミュージカルの形を提示しました。
また、2024年には日本でもおなじみの名作『ベルサイユのばら(베르사유의 장미)』のミュージカル化も手掛けています。彼は作品を設計する際、まず頭の中に巨大な完成図を描き、俳優にはその枠組みの中で自由に息づくことを求めるそうです。
共演経験の多いベテラン俳優ユ・ジュンサン(유준상)さんは、「ワン・ヨンボム演出家は、大きな絵を最初から持っている。明確な方向性を示してくれるので、俳優は安心してその世界に飛び込める」と絶賛しています。
■ 舞台という名の「旅」へ
韓国ミュージカルは、単なる観劇を超えた「体験」に近いものがあります。カーテンコールでの鳴り止まない拍手と、スタンディングオベーション。それは演出家、スタッフ、そして俳優たちが一体となって作り上げる「熱量」への賛辞です。
ワン・ヨンボム氏が切り拓いてきた大型創作ミュージカルの道は、今やK-POPやK-DRAMAに続く、韓国発のグローバルコンテンツとして注目を集めています。「言葉の壁を超えて伝わる感情の爆発」を、ぜひ一度、韓国の劇場で体感してみてください。そこには、映画よりもリアルで、夢よりも鮮やかな世界が広がっているはずです。
皆さんは、これまでに観て「人生が変わった!」と思うような韓国ミュージカルの演目や、ワン・ヨンボム監督の作品で印象に残っているシーンはありますか?お気に入りの俳優さんや、次に観てみたい作品など、ぜひコメントで熱い想いを聞かせてくださいね!
出典:http://www.edaily.co.kr/news/newspath.asp?newsid=01400566645381680
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