韓国映画やドラマを愛するファンにとって、スクリーンで見慣れた「あの名優」が、ある日突然、政府の要職に就くというニュースは驚きを持って受け止められるものです。今、韓国ではベテラン俳優ミョン・ゲナム(명계남)氏の「道知事」就任を巡って、大きな議論が巻き起こっています。
実力派俳優として知られる彼が、なぜ政治の表舞台に立つことになったのか。そして、韓国芸能界で繰り返される「政治とスターの密接な関係」にはどのような背景があるのでしょうか。最新のニュースと共に、日本人ファンが気になるポイントを紐解いていきましょう。
■ 「北朝鮮にある県の知事」に俳優が就任?その不思議な仕組み
今回のニュースの核心は、イ・ジェミョン(이재명)政府がミョン・ゲナム氏を「以北五道委員会(北朝鮮にある5つの道の行政を象徴的に担当する政府機関)」の「黄海道(ファンヘド)知事」に任命したことです。
日本人からすると、「北朝鮮にある地域の知事に、韓国の俳優が任命されるのはどういうこと?」と不思議に思うかもしれません。ここで少し、韓国独自の背景を補足しましょう。
韓国の憲法では、朝鮮半島全域を自国の領土とみなしています。そのため、現在は北朝鮮が統治している地域(黄海道、平安南道、平安北道、咸鏡南道、咸鏡北道など)に対しても、象徴的な「知事」を置いているのです。実質的な行政権はありませんが、主に北側から逃れてきた「失郷民(シリャンミン:朝鮮戦争などで故郷を離れ、南側に移住した人々やその子孫)」のコミュニティを支援し、南北交流の窓口となる役割を担います。
政府は、ミョン・ゲナム氏の父親が黄海道出身の失郷民であることや、著名人としての高い発信力を評価したと説明しています。しかし、この人事が「政治的な報酬ではないか」という批判を呼んでいるのです。
■ スクリーンの中の顔、そして「政治活動家」としての顔
ミョン・ゲナム氏を知るファンなら、彼がただの俳優ではないことをご存じかもしれません。1973年に演劇でデビューした彼は、イ・チャンドン(이창동)監督の傑作『グリーンフィッシュ(1997年の映画、ハン・ソッキュ主演)』や『ペパーミント・キャンディー(2000年の映画、ソル・ギョング主演)』、『オアシス(2002年の映画、ムン・ソリ主演)』などの制作に携わった、韓国映画界の重鎮です。
一方で、彼は熱烈な政治活動家としても知られています。2002年の大統領選挙では、故ノ・ムヒョン(노무현)元大統領の支持団体「ノサモ(ノ・ムヒョンを愛する人々の集まり)」の初代代表を務め、今回のイ・ジェミョン大統領の選挙戦でも公開支持を表明していました。
韓国では、芸能人が特定の政治家を応援することを「ポリテイナー(政治を意味するポリティクスとエンターテイナーの造語)」と呼びます。日本に比べて、スターたちが自分の政治的信条をはっきりと口にする文化がありますが、それが時として「ブラックリスト(不遇な扱いを受ける)」や「ホワイトリスト(優遇される)」という議論に発展することも珍しくありません。
■ 繰り返される「報い人事」への批判と、過去のスターたち
今回の就任に対し、野党側からは「イ・ジェミョン支持の対価として、国民の血税(高い年俸)が払われるポストを与えられたのではないか」という厳しい声が上がっています。こうした「選挙での貢献に応じて公職を与える制度」を韓国では「葉官主義(ヨプクァンジュイ)」と呼び、政権交代のたびに繰り返される問題として批判の対象になります。
実は、こうした事例は過去にもありました。
・ユ・インチョン(유인촌):ドラマ『田園日記』などで国民的俳優だった彼は、イ・ミョンバク(이명박)政府で文化体育観光部長官(日本の文科相に近いポスト)に起用されました。
・イ・ウォンジョン(이원종):ドラマ『野人時代(2002年の大ヒットドラマ)』のク・マジョク役で有名な彼は、先日、韓国コンテンツ振興院(KOCCA:韓国のコンテンツ産業を支援する政府機関)のトップ候補に挙がりましたが、「親明派(イ・ジェミョン氏に近い派閥)への報い人事だ」という反発を受け、最終的に辞退する形となりました。
韓国社会では、専門性よりも「どれだけ政権に尽くしたか」で役職が決まる慣習に対し、特に若者世代から「不公平だ」という不満が強く噴出する傾向にあります。
■ 私たちの「推し」と政治の距離感
日本のファンにとって、好きな俳優が政治的な色を帯びることは、少し複雑な気持ちになるかもしれません。「作品の中の姿だけを見ていたい」と思う一方で、社会問題に声を上げる勇気ある姿に惹かれるファンもいるでしょう。
今回のミョン・ゲナム氏の知事就任は、単なる一俳優のキャリアアップではなく、韓国における「芸能界と政治の切っても切れない関係」を象徴する出来事といえます。行政の実務経験がない俳優が、1億5000万ウォン(約1600万円)とも言われる年俸に見合う働きができるのか、韓国国民の目は厳しく注がれています。
名優としてのキャリアを誇る彼が、公職という新しい舞台でどのような「演技」を見せるのか。あるいは、政治の荒波に揉まれることになるのか。作品ファンとしては、彼の活動が今後の韓国映画界や文化政策にどのような影響を与えるのかも気になるところですね。
皆さんは、好きな俳優さんが政治の世界に挑戦することについて、どう感じますか?「演技に専念してほしい」ですか、それとも「社会を変えるリーダーになってほしい」ですか?ぜひ、あなたの率直な感想をコメントで教えてください!
出典:https://www.ilyoseoul.co.kr/news/articleView.html?idxno=513903
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