エミー賞を席巻した前作から一転し、最新作は上流社会のカントリークラブを舞台に特権階級の亀裂を描きます。オスカー・アイザック(오스카 아이작)ら新キャストを迎え、システムの中での憤怒を映し出します。
■ 爆発する怒りから冷笑的な視点へ、物語の大きな転換
ネットフリックス・オリジナルシリーズとして公開された『BEEF/ビーフ ~逆上~』(脚本・演出:イ・ソンジン(이성진))は、現代人の内面に潜む怒りと実存的な虚無感を緻密に描き出し、エミー賞やゴールデングローブ賞を総なめにした記念碑的な作品です。シーズン1が個人と個人の激突を通じて自己の亀裂を露呈させたのに対し、新たに公開されたシーズン2では、その視線をより遠くへと移しています。
個人内部から始まった亀裂は、今作では集団やシステムというより大きな枠組みへと波及しており、叙事詩としてのスケールと美学的な質感を同時に拡張させています。しかし、前作が残した強烈な余韻の中で、シーズン2に対する評価は今のところ平淡なものにとどまっています。これは作品の完成度の問題というよりも、中心となる感覚が移動したことによる「ズレ」に起因していると分析されています。
シーズン1で鮮明に捉えられていた、アメリカにおける「シビック・ナショナリズム(市民的ナショナリズム:人種や宗教に関わらず、共有する政治的価値観に基づいた国家的一体感)」の崩壊、そしてその隙間で孤立した個人が爆発させる怒りの言語が、今作ではやや影を潜めています。意図的に構成されたアイデンティティの枠組みの中で、個々人が破片のように散り散りになっていた鋭い感覚が、集団的な物語の中に緩やかに吸収されたような印象を与えています。
■ 舞台はカントリークラブへ、構造的な葛藤と階級の偽善
物語の出発点もシーズン1とは大きく異なります。シーズン1は、些細な「ロード・レイジ(運転中の割り込みや追い越しなどに対する激昂)」という偶然のトラブルから始まりました。スティーヴン・ユァン(스티븐 연)演じるダニーと、アリ・ウォン(앨리 웡)演じるエイミーという、階級の異なる二人が衝突し、互いの内面の底にある感情を揺さぶることで破壊的な連鎖を引き起こしました。
対してシーズン2の舞台は、カントリークラブや地域社会、そして閉鎖的な上流階級の秩序へと移っています。オスカー・アイザック(오스카 아이작)とキャリー・マリガン(캐리 멀리건)を中心に展開される葛藤は、もはや個人の感情だけに留まりません。その亀裂は階級の偽善や権力の構造を照らし出す方向へと広がっていきます。
この変化に伴い、空間の演出も変容しました。ロサンゼルスの道路や古いアパート、抑制された邸宅が作り出していた緊迫感に代わり、華やかでありながらも息の詰まるようなカントリークラブや広大な屋敷が前面に押し出されています。破壊的な共生関係の下降曲線は、システム内部での生存と転覆が絡み合う混沌とした様相へと書き換えられました。
■ 映像美の変容、ウェス・アンダーソンを彷彿とさせる様式美
映像美の質も前作とは一線を画しています。シーズン1では現代美術の作品を各エピソードのタイトルや象徴として用い、優雅な表面の下に隠された醜さを暴き出しました。特に最終話における幻覚的な演出は、二人の登場人物の魂が混ざり合う瞬間を超現実的に描き、奇妙な救済の感覚を残しました。
一方のシーズン2は、より演劇的で整えられた形式を採用しています。ウェス・アンダーソン(웨스 앤더슨)(独特の色彩と左右対称の構図で知られる映画監督)を連想させる対称的な構図と華やかな色彩、その中に密かに配置された暴力性が特徴です。丁寧な顔をした残酷さが画面全体を支配しており、上流階級の洗練された美学そのものが、最も洗練された暴力の形式として機能しています。
社会学者のロバート・ベラーは、アメリカ社会を支える見えない信仰を「市民宗教(Civil Religion)」と呼びました。憲法や自由の女神といった象徴が、単なる制度を超えて共同体を結びつける神話として機能するという考え方です。しかし、その開放性は決して平等ではありません。表面的な包容の下には見えない境界線が残り、移民の後世代が経験するアイデンティティの混乱や排除の感情は、構造的な緊張の現れでもあります。シーズン2はこの広範な文脈に焦点を当てていますが、感情の密度を十分に維持できていないという指摘もあります。それでも、集団的な物語の中で揺れ動く個人の感覚は、今もなお重要な問いを投げかけています。
出典:http://www.ilemonde.com/news/articleView.html?idxno=22266
📚 Buzzちゃんの豆知識
■ ロード・レイジ(Road Rage)
車の運転中に割り込みや追い越しなどをされた際、過度に激昂して相手を煽ったり、攻撃的な行動に出たりすることを指します。シーズン1ではこの些細な出来事が人生を破滅させる巨大な執着へと発展していく様子が描かれ、現代人のストレス社会を象徴するキーワードとなりました。
■ 市民的ナショナリズム(Civic Nationalism)
血縁や人種といった生物学的なつながりではなく、民主主義や自由といった共通の政治的価値観や法制度への忠誠心に基づいて形成される国家意識のことです。多民族国家であるアメリカの基盤となる考え方ですが、ドラマ内ではその理想と、現実の格差や疎外感とのギャップが重要なテーマになっています。
前作の泥臭いぶつかり合いも衝撃的でしたが、シーズン2の「特権階級のドロドロ」という設定は、財閥や権力争いが大好物な私としてはかなりそそられるテーマなんです!洗練された映像の中で行われる残酷な解剖劇のような雰囲気、皆さんはどう感じましたか?前作のような生々しい爆発が見たい派?それとも、今作のような冷ややかな心理戦を楽しみたい派でしょうか?
コメント