1989年にベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した映画『悲情城市』。台湾の九份を舞台にトニー・レオン(양조위)が主演を務め、2・28事件前後の激動の時代を描いた本作は2026年5月に韓国で再公開されます。
■ 映画の力で息を吹き返した台湾の山あいの町・九份
台湾北部の新北市瑞芳区に位置する山あいの町、九份(ジョウフェン)。今や台湾を代表する観光地として知られるこの場所は、かつて金鉱の町として栄え、その後衰退の一途を辿った歴史を持っています。雨に濡れた石段や、夕闇をオレンジ色に染める赤提灯が並ぶ幻想的な風景は、多くの旅人を惹きつけてやみません。
九份という地名の由来には諸説ありますが、清朝時代の1845年頃、この地にはわずか9世帯しか住んでおらず、何かを買う際にも常に「9軒分(九份)」と注文していたことからその名がついたと言われています。山腹に位置するため電車でのアクセスは難しく、台北(タイペイ)からバスやタクシーで1時間から1時間半ほどかかる場所にあります。
この静かな村が世界的に注目されるきっかけとなったのが、1989年に公開されたホウ・シャオシェン(허우샤오셴)監督の映画『悲情城市』でした。本作は、日本統治時代の終わりから中華民国政府が台湾へ移るまでの激動期、九份とその近隣の基隆(キールン)を舞台に、ある一家の変遷を描いた物語です。
■ 禁忌を破り時代を描いた名作『悲情城市』の背景
映画『悲情城市』は、昭和天皇による終戦の詔書(玉音放送)から始まります。物語の主役となるのは、林(リン)家の人々とその周囲の人間模様です。1987年に約40年間続いた戒厳令(国家の緊急時に軍が行政・司法を管理する制度)が解除された直後、それまで公に語ることがタブー視されていた歴史的悲劇「2・28事件」を正面から取り上げたことで、当時の台湾社会に大きな衝撃を与えました。
本作で林家の四男・文清を演じたのは、のちに『花様年華』や『HERO』で世界的スターとなる香港出身の俳優トニー・レオン(양조위)です。当時、彼は台湾の公用語や台湾語を話せなかったため、監督は彼に聴覚・言語障害を持つ写真師という役を与えました。この設定が、素人俳優も多く起用された作品の中で、彼の存在感をより際立たせる結果となりました。
また、一家の長を演じたリー・ティエンルー(이천록)は、台湾の伝統芸能である人形劇「布袋劇」の名人であり、ホウ監督作品の常連としても知られています。彼の存在は、変わりゆく時代の中で失われていく台湾の伝統を象徴するかのようです。
■ 金鉱の繁栄から観光名所への変遷
九份の歴史は金の歴史でもあります。19世紀末に金脈が発見され、日本統治時代の1920年代から30年代にかけて全盛期を迎えました。当時は「東洋一の金鉱」と呼ばれるほどの賑わいを見せましたが、1945年の終戦による社会情勢の変化や採掘量の減少により、1971年にはついに閉山。その後、村は人々に忘れ去られた存在となっていました。
しかし、『悲情城市』がベネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞し、台湾を代表する「国民的映画」としての地位を確立すると、ロケ地である九份には再び人々が押し寄せるようになりました。現在、メインストリートである基山街には、名物のタロ芋団子や草餅を売る店、伝統的な茶芸館(台湾式の喫茶店)がひしめき合っています。
特に有名なのは、急な階段に面して建つ茶芸館です。この独特な景観は、アニメーション映画『千と千尋の神隠し』のモデルになったという噂が広まり、日本からの観光客も急増しました。宮崎駿監督自身はこの噂を否定していますが、雨に煙る九份の街並みと、そこで楽しむ高山茶の味わいは、今もなお映画のワンシーンのような情緒を漂わせています。
映画がひとつの村を再生させ、その路地にはかつての哀歓の記憶が刻まれている。九份は単なる観光地ではなく、台湾の現代史を無言で語り続ける場所でもあるのです。
出典:https://www.m-joongang.com/news/articleView.html?idxno=402430
📚 Buzzちゃんの豆知識
■ 2・28事件
1947年2月28日に台湾で発生した、国民党政府による武力弾圧事件です。当時の腐敗した政治への不満から始まった大規模な抗議活動に対し、軍が介入して多くの市民が犠牲となりました。この事件は台湾現代史の大きな傷跡となり、1987年に戒厳令が解除されるまで公に語ることは固く禁じられていました。
■ 本省人(ポンションレン)と外省人(ワイションレン)
台湾で使われる区分で、「本省人」は戦前から台湾に住んでいた人々とその子孫、「外省人」は戦後(1945年以降)に中国大陸から渡ってきた人々を指します。両者の間には言語や習慣の違いから摩擦が生じることもあり、映画『悲情城市』の中でも、解放後の新たな統治者に対する複雑な感情として描かれています。
私は『財閥家の末息子』のような歴史や社会の裏側を描く作品が大好きなので、この映画の背景にある重厚な人間ドラマにはすごく興味を惹かれます。九份のあの幻想的な風景に、実は切ない歴史が刻まれていたなんて驚きですよね。皆さんは旅行先を「ロケ地巡り」で選ぶ派ですか?それとも純粋に「グルメや景色」で選ぶ派ですか?
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