今年3月、スペインのバルセロナで開催される世界最大のモバイル展示会「MWC2026(Mobile World Congress 2026)」が、韓国の通信業界にとって一つの大きな転機となりそうです。SKT、LG U+、KTの国内通信大手3社が揃って参加し、それぞれ異なるAI戦略を展開することが決定しました。このニュースが注目を集める背景には、AI技術がもはや産業の未来を左右する重要なファクターになったという認識が、韓国企業の間で急速に広がっていることがあります。
■SKT 「フルスタックAI」で圧倒的な技術力をアピール
SKTが打ち出すのは「フルスタックAI」という包括的な戦略です。データセンター、ネットワーク、マーケティングといった異なる領域すべてにAI技術を統合させることで、総合的なAIインフラの構築を実現しようとしています。
具体的には、AI専用データセンター内の大規模なデータを一元管理する「AI DC インフラ マネージャー」、高性能なクラウドプラットフォーム「ペタサス(Petasus)AI クラウド」、GPU(グラフィックス処理装置)の最適利用を実現する「AI クラウド マネージャー」といった、エンタープライズレベルの高度なソリューションを展示します。これらを統合した「K-ソベリン GPUaaS(GPU as a Service)ソリューション」は、韓国の技術的自立を象徴する重要なプロダクトです。
さらに注目すべきは「AI インファレンス ファクトリー」という次世代ソリューション。AIモデルの推論処理を効率化することで、実務レベルでのAI活用を加速させる狙いが込められています。
ネットワーク領域では、基地局自体にAI機能を搭載した「AI基地局(AI-RAN)技術」や、電波信号を利用して周囲の環境情報を取得する「通信・センシング統合技術」など、次世代通信の姿を示すものばかり。マーケティング領域では、顧客体験を革新する「エージェンティック(Agentic)AI」サービスを多数展開する予定です。
また、SKTが開発した超大規模AIモデル「A.X K1(エイドット・エックス・ケーワン)」の現場実演も行われ、同社のAI言語モデルブランド「A.X」のオープンソース公開も予定されています。さらにはデジタルツイン技術を活用したロボットトレーニングプラットフォームなど、未来志向的なサービスが多数登場することになります。
■LG U+ 「人間中心のAI」というコンセプトで共感を呼ぶ
一方、LG U+が標榜するのは「Humanizing Every Connection(人間中心のAI)」というコンセプトです。技術仕様を並べるのではなく、人々の生活にどう寄り添うのかを軸に据えた展示戦略となっており、メディアアート表現を活用した、より感性的で共感しやすい提示方法を採用しています。
旗艦製品となるのが、AI搭載の個人アシスタントサービス「イクシオ プロ(ixi-O PRO)」。顧客の感情まで読み取って対応するカスタマイズ型「AICC」(AI Contact Center)や、LGグループ傘下企業との協業により競争力を高めた「AIDC」(AI Data Center)も展示されます。
特に注目すべきは「オートノーマス NW(Autonomous Network)」という自律型ネットワークの提案。ネットワークの全プロセスにAIを組み込み、システムが自動的に判断・対応する仕組みを実現することで、運用コストの削減と信頼性の向上を目指しています。
セキュリティ領域では、AIセキュリティブランド「イクシガーディアン(ixi-Guardian)2.0」を発表。通信と金融を融合させた、ボイスフィッシング詐欺への予防・対応ソリューションも展開され、一般ユーザーにより実感できるAI技術の活用例が提示されることになります。
さらに興味深いのは、LG AI研究院およびテック企業のプリオサとの協力による「ソベリン AI(韓国産AI)」の推進。技術的自立という大きなテーマも同時に打ち出しています。
■KT 「AIとK-カルチャー」の融合で新しい価値を創造
KTが仕掛けるのは、AI技術とK-カルチャーを融合させた、より文化的・エンターテイメント的なアプローチです。展示会場を「AXゾーン」と「K-スクエアゾーン」に分けて、領域別の最新AIソリューションを展示します。
AXゾーン(AI トランスフォーメーション)では、企業向けにカスタマイズされた「エージェンティック ファブリック(Agentic Fabric)」という新型OSを発表。様々なAI技術とエージェントを有機的に連携させ、企業業務全般を効率化するエンタープライズAI運営基盤となります。産業別に必要なエージェントを簡単に作成できる「エージェント ビルダー」や、次世代型コンタクトセンター向けAI「エージェンティック AICC」、AI映像解析で行方不明者を捜索する「ビジョン トラック」といった実践的なソリューションが続々登場します。
一方、K-スクエアゾーンは、韓国文化の発信に注力するエリア。協力する中小・ベンチャー企業とのブースのほか、BCカード、KTスポーツ、KTミルの書斎といったグループ企業も参加し、各社の主要サービスを紹介します。
特にユニークなのは、K-POPアイドルグループ「コルティス」(コルティス)とのコラボレーション「AR ダンスプログラム」。韓服を仮想試着できる「AI韓服体験」も運営され、テクノロジーと韓国文化の融合を具体的に体験できる仕掛けになっています。
そのほかにも韓国通信の歴史をたどるアーカイブゾーン、ウナギ選手(イ・ガンイン)の7言語応援メッセージを展開するスポーツゾーン、スマート注文・決済サービスを体験できるF&Bエリアなど、ユーザーが楽しみながらAI技術に触れられる多彩な空間が用意されます。
■なぜ今、この三つどもえの戦いが注目されるのか
これら三社の展示戦略を見比べることで浮かび上がるのは、韓国通信企業がAI時代にどう立ち向かおうとしているのか、その方向性の違いです。SKTは技術力の絶対性を、LG U+は人間中心の共感を、KTは文化とテクノロジーの融合を、それぞれの武器として選択しています。
MWC2026は、単なる技術展示会ではなく、今後の通信・AI産業の覇権がどこにあるのかを決める戦場となるでしょう。日本のK-POPファンや韓国テクノロジー愛好者にとっても、同じアジア地域の企業たちがどのような未来を描こうとしているのかを理解する、絶好の機会となります。三社がそれぞれどんな成果を上げるのか、今から目が離せません。
出典:テクワールドニュース
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