ハイブが仕掛ける新戦略。K-POPに物語を織り込むことで何が変わるのか

K-POPの競争力はどこにあるのか。ビジュアル、ダンス、楽曲のクオリティ…こうした要素は確かに重要です。しかし今、大手事務所ハイブが仕掛けている新しい動きが、その答えをさらに複雑で興味深いものにしようとしています。

音楽と物語を融合させるというプロジェクト。一見すると当たり前のような試みに見えるかもしれませんが、実はK-POP市場にとって極めて戦略的で、かつ大きなリスクを伴う冒険なのです。

■YouTubeの怪物クリエイターとの夢のコラボ

ハイブの米国子会社「ハイブ・アメリカ」が最近発表した企画が話題になっています。あのアラン・チッキン・チャウ(YouTube Shortsの世界最多視聴数、60億回以上の再生数、1億3000万フォロワーを誇る超人気クリエイター)とNetflixがタッグを組み、新しいポップグループ誕生までのプロセスを描くドラマシリーズを共同制作するというもの。

アラン・チッキン・チャウといえば、『Alan's Universe』というドラマシリーズで世界中のZ世代から圧倒的な支持を受けています。青春、友情、正しい価値観といったテーマを扱う同シリーズは月間10億回以上の視聴数を記録。まさに次世代を代表するストーリーテラーなのです。

この協業がいかに大胆かを理解するには、ハイブとアラン・チッキン・チャウが持つそれぞれの強みを見る必要があります。世界的なK-POPプロデュース技術と、Z世代のハートを掴むナラティブ構築力。このふたつが合わさったとき、何が生まれるのか──それが多くのファンや業界人を期待させているのです。

■ドラマから映画へ。マルチメディア展開の本気度

ハイブの野心はドラマシリーズだけに留まりません。昨年から映画制作にも本格的に乗り出しています。

パラマウント・ピクチャーズとの共同制作で進行中の映画は、家族の反対を押し切ってK-POPガールグループのオーディション番組に挑む韓系米国人の少女の物語。監督は『ソウル・キャンプ 1986』で知られるベンソン・リ、脚本は『アコライト』(ディズニー+のオリジナルシリーズ)を手がけたアイリーン・シム、出演には映像新作や歌手のエリック・ナム、俳優のソン・ジュン、カン・ソラら豪華キャストが名を連ねています。

これらの作品を見ていると、単なる「K-POPの宣伝」ではなく、より広い視聴者層にK-POPというカルチャーそのものを理解・共感させるための総合的なストーリーメディア戦略だと気づきます。

■なぜ「物語の力」なのか

K-POPの愛好者は確実に増えています。しかし市場の飽和、競争の激化、各グループの個性の同質化など、業界全体が直面する課題も存在します。そこでハイブが考えたのが、コアなファンダムだけに頼るのではなく、もっと広い一般層を取り込むための切り口としての「ストーリー」なのです。

物語には永続的な魅力があります。映画やドラマの主人公に感情移入することで、彼らが歌う音楽への没入度も自然と高まる。そして、その主人公たちが実は本当のアイドルであり、シリーズの枠を超えて音楽活動を展開する──そうした融合的な体験は、従来のK-POP消費とは全く異なるアプローチです。

実際、アラン・チッキン・チャウのシリーズでは、オーディションで選ばれた出演者たちが新曲をリリースし、実アーティストとしての活動をスタートさせます。つまり、ドラマを見た視聴者が、そこで魅力を感じたキャラクターの音楽を、そのまま自然に追っかけるようになる仕組みです。これは極めて巧妙で、かつ理に適った施策といえます。

■グローバル現地化戦略との組み合わせ

昨年の決算によると、ハイブの売上高は過去最高の2兆6498億ウォンを記録。一方で営業利益は約499億ウォンと前年比72.9%の大幅減少となりました。理由は、グローバルIP展開への積極投資と事業構造再編に伴う一時的コストです。

ハイブは日本のANTEM・AOEN、米国のCATSEYE(キャッツアイ)、ラテンアメリカのサントス・ブラボス・ムーサなど、各地域の現地アイドル制作に注力しています。特に注目は米国のキャッツアイ。デビュー2年未満で既にグラミー賞のベストニューアーティスト部門にノミネートされるなど、急速に成長しているのです。

ハイブのビジョンは明確です。K-POPという「韓国発の方法論」を世界各地に移植し、ローカライズすること。そこに物語という普遍的なコンテンツを掛け合わせることで、グローバル音楽市場での主導的立場を確保しようとしているのです。

■リスクを承知での挑戦

もちろん、このアプローチにはリスクも伴います。ドラマと音楽という異なる産業の融合は、互いに干渉しあう可能性もあります。ストーリーに重きを置きすぎれば、音楽そのものの魅力が埋没してしまうかもしれません。逆に音楽性を優先させると、ドラマとしての完成度が落ちる可能性もあります。

また、グローバル展開が本当に収益化につながるかは、まだ未知数です。しかし、その「怖さ」こそが、ハイブの新しい挑戦を本気たらしめています。

ハイブ・アメリカの映画・TV部門責任者であるジェームス・シンは、「このシリーズはポップグループ誕生のプロセスを映す文化的モデルとなるだろう」とコメント。クリエイター生態系の先駆者であるアラン・チッキン・チャウとともに、「視聴者層を広げ、ファンダム構築の方法を拡張する革新的作品を作る」と宣言しています。

K-POPが次のステージへ進もうとしています。単なる音楽としてではなく、グローバルストーリーテリングのプラットフォームとして。その実験の行方は、ファン・業界人双方にとって目が離せません。

出典:https://news.mtn.co.kr/news-detail/2026022309141286140

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