チョ・ヨンピルやヘウニの名曲を支えた巨匠、作曲家キム・ヨンニョン氏が死去。韓国音楽の黄金期を築いた3700曲の軌跡

韓国音楽界の歴史を語る上で欠かせない、伝説的な巨匠がこの世を去りました。

1980年代の韓国歌謡界(K-POPの礎となった時代)を彩り、国民的歌手ヘウニ(혜은이)の「ピノキオ」や、歌王チョ・ヨンピル(조용필)の「キリマンジャロの豹」など、数々の名曲を手掛けた作曲家兼編曲家のキム・ヨンニョン(김용년)氏が、2月25日夜、82歳で逝去されました。

韓国音楽著作権協会が主催するイベントに参加した帰り道、自宅近くで心停止により倒れ、そのまま帰らぬ人となったとのことです。生涯で3700曲以上もの楽曲に携わり、最期まで音楽と共に歩んだその劇的な人生と、彼が残した功績を振り返ります。

■ K-POPのルーツを作った「編曲の神様」としての顔

日本の韓流ファンの皆さんの中には、「80年代の韓国の曲はあまり詳しくない」という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、今のK-POPアイドルたちがバラエティ番組や音楽番組でカバーする「伝説の名曲」の多くに、キム・ヨンニョン氏が関わっています。

キム・ヨンニョン氏は、単なる作曲家ではありませんでした。特に「編曲家(アレンジャー)」として、当時の韓国音楽に新しい風を吹き込んだ人物です。例えば、日本でも有名なチョ・ヨンピルの代表曲「キリマンジャロの豹(킬리만자로의 표범)」の編曲を担当しました。この曲は、歌の途中に長い独白(モノローグ)が入るという、当時の韓国では非常に斬新な構成で知られていますが、そうしたドラマチックな演出を音で支えたのが彼でした。

他にも、日本でもカバーされたチェ・ジニ(최진희)の「愛の迷路(사랑의 미로)」や、今でも韓国のカラオケで定番のキム・スヒ(김수희)の「南行列車(남행열차)」など、韓国人なら誰もが口ずさめる「国民的歌謡」の多くが、彼の魔法によって完成されました。

豆知識:韓国の「国民的歌謡(クンミンガヨ)」とは?
特定の世代だけでなく、子供からお年寄りまで全国民に愛されるヒット曲を指します。日本の昭和歌謡の黄金期に近い感覚で、今のBTSやBLACKPINK(ブラックピンク)とはまた違う、DNAに刻み込まれたような懐かしさを韓国の人々はこれらの曲に感じています。

■ ベトナムの戦場から始まった音楽人生

キム・ヨンニョン氏の音楽キャリアのスタートは、非常にドラマチックなものでした。1944年にソウルで生まれた彼は、1969年、ベトナムに駐屯していた米軍の慰問公演を行うロックバンド「ローリング・シックス」のオルガン奏者として活動を始めました。

実は、チョ・ヨンピル氏や「韓国ロックの父」と呼ばれるシン・ジュンヒョン(신중현)氏など、当時の韓国のトップミュージシャンの多くが、こうした米軍キャンプでの公演を通じて最新の西洋音楽に触れ、実力を磨いていました。いわば、米軍ショーは当時の韓国音楽界における「最高のトレーニングセンター」だったのです。

帰国後、彼はスター作曲家であるキム・ヒガプ(김희갑)氏とコンビを組み、1980年代のヒットチャートを席巻します。彼の仕事は非常に多岐にわたり、トロット(韓国演歌)からバラード、ロックまで、ジャンルを問わず「売れる音」を作り出しました。

■ 晩年の試練と、音楽への無垢な情熱

輝かしい経歴の一方で、晩年のキム・ヨンニョン氏は苦難の連続でもありました。2017年、自宅兼スタジオで火災が発生し、彼が一生をかけて集めてきた膨大な音楽資料や楽譜、機材がすべて灰になってしまったのです。

このショックから、短期記憶喪失を患うなど健康を害し、さらには糖尿病や癌との闘いも続きました。しかし、そんな体調の中でも、テレビから自分の作った曲が流れてくると「あれは私が作った曲だ」と嬉しそうに話し、音楽への情熱を失うことはなかったといいます。

彼の息子であるキム・ドンゴン(김동건)氏は、映画「アニケン(애니깽)」やドラマ「天使の誘惑(천사의 유혹)」などに出演した俳優としても知られています。家族に見守られながら、音楽に捧げた82年の生涯を閉じました。

現代のK-POPが世界中で愛されている背景には、こうした先人たちが築き上げた豊かな音楽の土壌があります。私たちが推しのカバーで聴くあのメロディ、あのフレーズの裏には、キム・ヨンニョン氏のような巨匠の魂が宿っているのかもしれません。

韓国音楽の発展に尽力したキム・ヨンニョン氏。その素晴らしい楽曲たちは、これからも語り継がれていくことでしょう。心よりご冥福をお祈りいたします。

最近のK-POPアイドルたちが昔の名曲をカバーする機会も増えていますが、皆さんがお気に入りの「懐メロカバー」はありますか?巨匠が残したメロディを、ぜひ改めてチェックしてみてくださいね。

出典:https://www.khan.co.kr/article/202602261934001

  • X

コメント

PAGE TOP