ビル界の屋上で、あのハリウッドスター、トム・クルーズとブラッド・ピットが激しい格闘を繰り広げる――。そんな新作映画の予告編のような15秒の映像が、今、世界中に衝撃を与えています。実はこれ、本物の俳優が演じたものではなく、スタッフもカメラも使わずに、AI(人工知能)だけで作られた映像なのです。
この映像を生み出したのは、TikTok(ティックトック)の親会社として知られる中国のバイトダンスが発表した最新の映像生成AIモデル、シダンス 2.0(Seedance 2.0)。たった2行の指示文(プロンプト)を入力するだけで、プロ顔負けのアクションシーンが完成してしまうこの技術に、米国の技術者たちは「私たちは終わった(We are done)」と絶望に近い溜息をついたといいます。
しかし、これは遠いハリウッドだけの話ではありません。私たちが愛してやまない「K-コンテンツ(韓国の映画、ドラマ、音楽などの文化コンテンツ)」もまた、このAIの猛威という「安全地帯」ではないのです。
■ 著作権無視?ハリウッドを震撼させた「シダンス 2.0」の正体
シダンス 2.0がこれまでのAIと決定的に違うのは、その圧倒的な「再現力」と「利便性」です。SNSに投稿されたデモ映像には、「スター・ウォーズ」や「タイタニック」、「指輪の物語(ロード・オブ・ザ・リング)」といった超大作のキャラクターたちが次々と登場します。さらには、Netflix(ネットフリックス:世界最大手の動画配信サービス)の人気シリーズ「ストレンジャー・シングス」や、トム・クルーズの代表作「ミッション:インポッシブル」のシーンまでが、許可なく、あたかもフリー素材(著作権フリーの素材)のように再現されているのです。
これに対し、ディズニーやパラマウントといった大手スタジオは即座に反応しました。「著作権で保護されたキャラクターを無断で使用している」として、法的手段を含めた強力な抗議を行っています。しかし、シダンス 2.0の開発元は中国企業のバイトダンス。欧米の法律がどこまで通用するかは不透明な部分が多く、この「法の空白地帯」を突いた戦略が、クリエイターたちの生活を脅かしています。
■ なぜK-コンテンツが次の「標的」になるのか
では、なぜこの技術がK-コンテンツにとって大きな脅威となるのでしょうか。韓国の専門家たちは、主に3つの理由を挙げています。
1. バイラル性の高さ(拡散力)
K-POPのパフォーマンス映像やドラマの名シーンは、短いクリップ(短い動画)としてSNSで瞬く間に拡散されます。AIはこうしたネット上の膨大なデータを学習材料にするため、世界中で人気のあるK-コンテンツは、AIにとって最も「学習しやすい」格好のターゲットなのです。
2. 「キャラクター経済」という特異性
K-POPアイドルの顔や声、ドラマの登場人物のビジュアルは、そのまま大きなビジネス価値を持ちます。韓国では所属事務所(Big4と呼ばれるHYBE、SM、JYP、YGなど)がアーティストの肖像権を厳格に管理していますが、AIによるディープフェイク(AIを用いた精巧な偽動画)が氾濫すれば、本人たちの努力とは無関係に、偽のコンサート映像や広告が勝手に作られてしまうリスクがあります。
3. 熱狂的なグローバルファン層
K-コンテンツには世界中に熱心なファンがいます。もし、シダンス 2.0を使って「イカゲーム(오징어 게임 / 2021年に公開され世界的大ヒットを記録したNetflixドラマ)」の続編を勝手に誰かが作り、それがSNSで流れたらどうなるでしょうか。本物と見分けがつかないクオリティであれば、多くのファンが混乱し、公式のブランド価値が大きく損なわれることになります。
実際に、シダンス 2.0のベータ版が公開された直後から、TikTok上にはブラックピンク(BLACKPINK(블랙핑크) / 4人組の人気ガールズグループ)のディープフェイク・ダンス動画や、K-ドラマのシーンを再現したショート動画が溢れ始めています。
■ 韓国エンタメ界の課題と「ファンの力」
韓国は儒教的価値観(目上の人を敬い、礼節を重んじる文化)が根強く、芸能人のパブリシティ権(有名人の氏名や肖像が持つ経済的利益を保護する権利)に対しても非常に敏感です。また、ファンカフェ(팬카페 / 特定の芸能人を応援するためにファンが自発的に、あるいは公式に運営するオンラインコミュニティ)などのコミュニティでは、ファンの監視の目が非常に鋭く、アイドルのイメージを損なうものに対しては団結して抗議する文化があります。
しかし、技術の進化はこうした文化的な抑止力を軽々と飛び越えてしまいます。現在、韓国政府やエンタメ業界は、AIが学習する際に著作権者に許可を得る「オプトイン(Opt-in)」の原則や、AIで作られた映像には必ず「AI生成」というマークを付ける義務化などの制度整備を急いでいます。
一方で、AIは悪いことばかりではありません。亡くなった名俳優を最新技術で復活させたり、言葉の壁を越えて自分の推し(応援しているスター)が自分の国の言葉で語りかけてくれるような、新しい体験を生み出す可能性も秘めています。
大切なのは、その技術が「クリエイターへの敬意」に基づいているかどうかです。私たちが大好きな俳優やアイドルが、長い年月をかけて血の滲むような練習を重ね、作り上げてきた唯一無二の表現。それを、たった数行のプロンプトで「盗む」ことが許されるのか。今、まさにそのルール作りが世界中で始まっています。
最新技術の進化にワクワクする一方で、大好きなスターの「本物の輝き」が守られるのか少し心配にもなりますね。もし、SNSで「推しにそっくりな偽動画」を見つけたら、あなたはどうしますか?技術とエンタメの共存について、皆さんの考えをぜひコメントで教えてください!
出典:https://shindonga.donga.com/3/all/13/6136558/1





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