韓国エンタメといえば、ドラマや映画、K-POPが真っ先に思い浮かびますが、実はソウルの「大学路(テハンノ/数百もの小劇場が集まる世界でも類を見ない演劇の街)」で繰り広げられる生の舞台演劇も、極めて熱量が高いことをご存知でしょうか?
今、この演劇の聖地で大きな注目を集めている作品があります。それが、劇団「突破口(トルパグ)」による新作舞台「チューリップ(튤립)」です。1920年代の日本・東京を舞台に、植民地時代の歴史の渦に巻き込まれた人々の「アイデンティティ」と「喪失」を、息を呑むような緊迫感で描き出しています。
今回は、韓国の批評家たちからも高い評価を受けている本作の見どころと、その背景にある深いメッセージを詳しく紐解いていきましょう。
■ 暗闇のステージに浮かび上がる、剥き出しの人間ドラマ
この舞台の幕が開いたのは、図らずも3月1日のことでした。韓国では「三一節(サミルジョル)」と呼ばれる、1919年に起きた独立運動を記念する国民の祝日にあたります。そんな象徴的な日に、あえて1920年代の東京という舞台設定の物語が披露されたこと自体、非常に挑戦的な試みといえるでしょう。
演出を手掛けたのは、独創的な空間使いで知られるチョン・インチョル(전인철)氏。今回の舞台「チューリップ」でも、その手腕が遺憾なく発揮されています。大学路芸術劇場の広大な大劇場のステージは、隅々まで漆黒に塗りつぶされ、まるですべてを飲み込む深淵のような重圧感を放っています。
その何もない空間に立つのは、わずか4人の俳優たち。背景や道具を削ぎ落とした分、観客の視線は俳優たちの「肉体」と「叫び」に集中せざるを得ません。彼らが動くたびに、客席側からの照明によって背後の壁に巨大な影が映し出される演出は、まるで登場人物たちが抱える心の闇が具現化されたかのようで、観る者を圧倒します。
■ 二人の父と一人の息子。1920年代の東京で交錯する「血」と「情」
物語の核心は、1920年代の東京にある中産階級の家庭にあります。ここで育てられた純粋な青年ジュリフ(김하람/キム・ハラム(김하람))を中心に、物語は静かに、しかし激しく動き出します。
ジュリフを育てたのは、日本人の大和(야마토:キム・ジョンホ(김정호))と恵理子(에리코)の夫婦。彼らにとってジュリフは、当時のスローガンでもあった「内鮮一体(日本と朝鮮は一つであるという同化政策)」の理想を体現するような存在であり、丹精込めて育て上げた「観賞用の花」のような息子でした。
しかし、そこに一人の男が現れます。黒い顔をした朝鮮人の庭師、クロ(쿠로:クォン・ジョンフン(권정훈))です。実はジュリフは、幼い頃に奪われるようにして連れてこられたクロの実の息子だったのです。
圧巻なのは、ベテラン俳優キム・ジョンホ演じる大和と、クォン・ジョンフン演じるクロの演技合戦です。育ての親としての執着を見せる大和の鋭い演技に対し、無骨ながらも息子への執念を燃やすクロの演技が真っ向からぶつかり合います。その間に立つジュリフを演じる若手俳優キム・ハラムも、どこの土に植え替えられても花を咲かせようとするチューリップの球根のような、力強い生命力を最後まで失わずに演じきりました。
■ 「チューリップ」の球根が問いかける、現代にも通じるメッセージ
タイトルである「チューリップ」は、本作において非常に強力な象徴として機能しています。チューリップの球根は、オランダから世界中に広まった歴史を持ち、植えられる場所(土壌)を選びません。
「奪われた息子を連れ戻したい」というクロの選択は、現代の視点で見れば「血縁への執着」と映るかもしれません。しかし、植民地支配という暴力的な歴史の中で、自らのルーツを奪われ、他者の理想のために「形作られた自分」として生きるジュリフの姿は、単なる家族の悲劇を超え、現代社会における「マイノリティ」や「ディアスポラ(離散)」のアイデンティティの揺らぎを鋭く突いています。
演出のチョン・インチョル氏は、あえて俳優たちが舞台袖で待機している様子も観客に見せています。これは「演じている自分」と「本来の自分」の境界線を曖昧にする効果があり、ジュリフが置かれた「偽りの自分」という状況を視覚的にも強調しているかのようです。
舞台上に掲げられたフランシス・ベーコンの歪んだ顔の絵画のように、不一致な自己像に苦しむ人々の姿。それは100年前の東京の話でありながら、今の私たちにも「本当の自分とは何か」という普遍的な問いを投げかけてきます。
韓国演劇界の底力を感じさせる「チューリップ」。その激しい演技の応酬と、漆黒のステージに残る深い余韻は、ドラマや映画では味わえない特別な体験となるはずです。
もしあなたがジュリフの立場だったら、育ての親の愛と、奪われた自分のルーツ、どちらを選びますか? ぜひ皆さんの考えもコメントで教えてくださいね!
出典:http://www.dailysmart.co.kr/news/articleView.html?idxno=121081





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