1945年に仁川で製造された1丁の小銃を主役に、韓国現代史の悲劇を鮮烈に描いた演劇『パンヤ』。2023年に数々の演劇賞を席巻した本作が、2026年5月24日までソウルの斗山アートセンターで上演されています。
■ 数々の演劇賞を総なめにした傑作『パンヤ』がソウルでアンコール上演
韓国演劇界で今、最も注目を集めている作品の一つである演劇『パンヤ』が、ソウル・鍾路区にある斗山アートセンター蓮崗(ヨンガン)ホールにて上演されています。本作は2022年に韓国文化芸術委員会(政府系の芸術支援機関)の支援事業「創作産室(チャンジャクサンシル)今年の新作」に選定され、初演当時から大きな話題を呼びました。
その評価は非常に高く、2023年には月刊「韓国演劇」が選ぶ「韓国演劇ベスト7」に選出。さらに、韓国演劇協会が主催する年末の授賞式「Kドラマアワード」では最高賞である大賞を受賞するなど、名実ともに韓国を代表する演劇作品としての地位を確立しました。2024年の再演や地方公演を経て、2026年3月3日から再びソウルの大舞台に戻ってきた今回の公演は、同年5月24日まで続く予定です。
本作は、約3時間という長い上演時間の中で、数百ものシーンをスピーディーに展開する構成が特徴です。1人の俳優が解説者(狂言回し)を務めながら演技をし、残りの8人の俳優が瞬時に役を切り替えながら場面を作り上げていく様子は、まさに「魔法のような舞台」と称賛されています。
■ 1丁の小銃「パンヤ」が目撃した、韓国現代史の10の物語
物語の主人公は、人間ではなく1丁の「銃」です。この銃は1945年、光復(日本からの解放)直前の仁川造兵廠(旧日本軍の武器工場)第3工場で誕生しました。物語はこの銃に「パンヤ」という名前をつけ、擬人化することで、その数奇な運命を追っていきます。
「パンヤ」は誕生後、軍需列車に揺られて満州へと運ばれ、最初の所有者である日本関東軍の将校キムラに出会います。そこから物語は、朝鮮半島の分断と戦争の歴史を駆け抜けます。歴代の所有者は以下の通り、多岐にわたります。
1. 日本関東軍の一等兵ナム・ギルナム
2. 中国八路軍(中国共産党軍)の戦士カン・ソンニョ
3. 済州島へ渡った国防警備隊の二等兵ヤン・ムグン
4. 西北青年団(反共団体)の団員パン・シンチュル
5. 朝鮮戦争勃発により銃を握った学徒兵イ・ウォンギョ
6. 人民軍義勇隊のチョ・アミ
7. パルチザン(遊撃隊)の突撃隊長チ・ソルヒ
戦争が終わった後も「パンヤ」の旅は終わりません。智異山(チリサン)の薬草採りや猟師の手に渡り、さらには捕鯨船に乗ってクジラ狩りに使われるなど、時代と共にその役割を変えていきます。そして1980年代には建設会社の会長のコレクションとなり、1990年代にはついに映画の撮影小道具として倉庫に眠ることになります。
■ 実力派の作家と演出家が描く「歴史と現実の交差」
この壮大な物語を支えているのが、韓国演劇界を代表するクリエイターたちです。脚本を手掛けたキム・ウンソン(김은성)作家は、韓国芸術総合学校(国立の芸術大学)出身の実力派です。2006年のデビュー以来、脱北女性を通じて分断の現実を描いた『木蘭姉さん(モクランオンニ)』や、青年世代の不安を投影した『サンシャインの戦士たち』など、社会性の強いテーマを独特の感性で描くことで知られています。
演出を担当したキム・テヒョン(김태형)氏もまた、ユニークな経歴の持ち主です。科学高校から難関のKAIST(韓国科学技術院)に進学するも中退し、演劇の道へ進んだという背景を持っています。演劇『モデムセンたち(優等生たち)』やミュージカル『メンフィス』など、ジャンルを問わず鋭い演出を見せることで定評があります。
劇中では、現代のシーンも並行して描かれます。かつては売れっ子だったものの、今はスランプに陥っているドラマ作家ナナが、撮影所の小道具倉庫で「パンヤ」を発見します。彼女はこの古い銃に秘められた物語を16部作のドラマにしようと執筆に没頭しますが、商業主義が優先される現在の制作現場では「主人公がいない」「事件が多すぎる」と敬遠され、何度も挫折の危機に直面します。
歴史的な現場で常に誰かの命を奪ってきた「パンヤ」の告白と、それを現代の物語として再生させようとするナナの苦闘。この二つの軸が交差することで、観客は韓国現代史の傷跡を単なる「過去の記録」ではなく、今に繋がる「生きた物語」として体験することになります。
出典:http://www.interview365.com/news/articleView.html?idxno=111501
📚 Buzzちゃんの豆知識
■ 創作産室(チャンジャクサンシル)
韓国文化芸術委員会(ARKO)が実施している、優れた新作舞台芸術を発掘・支援するプロジェクトのことです。演劇、ミュージカル、舞踊など多岐にわたるジャンルで、企画段階から公演までを段階的にサポートします。ここで選ばれることは作品の質の高さを証明する一種のブランドとなっており、ヒット作の登竜門とも言われています。
■ 済州4.3事件(チェジュササムジゴン)
1947年から1954年にかけて、韓国の済州島で発生した武力衝突とそれに伴う住民虐殺事件を指します。劇中で小銃「パンヤ」の持ち主が変わる過程で、こうした韓国現代史の悲劇的な出来事が背景として描かれています。長年タブー視されてきましたが、近年では多くのドラマや映画でも扱われるようになりました。
■ 大学路(テハンノ)
ソウルにある「演劇の聖地」と呼ばれるエリアです。100以上の小劇場が集まっており、毎日多くの公演が行われています。今回の公演会場である斗山アートセンターもこのエリアの近くに位置しており、若者からシニアまで演劇ファンが集まる文化の中心地として知られています。
歴史とミステリーが大好物の私としては、1丁の銃が「語り手」になるという設定だけでワクワクしちゃいます!ドラマ『財閥家の末息子』のように、歴史の裏側を覗き見るような感覚がありそうですよね。重いテーマではありますが、小道具倉庫から物語が始まるという構成もすごくロマンがあると思うんです。皆さんは歴史作品を観る時、有名な英雄の物語が好きですか?それとも、この作品のように名もなき人々の日常や「物」が主役の物語に惹かれますか?
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