ハン・ジミンも認める市場の論理。韓国の転職市場で1200万件の提案が飛び交う理由

■ドラマから現実へ。転職が「当たり前」の時代到来

昨年放送されたドラマ『ナ・マイ・パーフェクト・セクレタリー』(SBS)でサーチファーム代表を演じたハン・ジミン(강지윤)。劇中で大企業の人事担当者に向かって、こう言い切るシーンがあります。

「自分の価値を認めてくれて、キャリアを広げられる場所へ移動する。それが当たり前の市場の論理です」

この台詞が、実は今の韓国職場社会を象徴しているんです。かつての「平生直場(定年までずっと同じ会社で働く)」という概念は完全に過去のもの。キャリア採用が活発化し、転職を前提として職場選びをする社会人がもう珍しくなくなっています。

そしてこのドラマの台詞はまさに現実となっています。

■数字が物語る韓国の転職ブーム

韓国の主要求人プラットフォーム「ジャブコリア」と「アルバモン」(両サービスの運営会社はワークスピア)が発表した最新データが、職場環境の劇的な変化を物語っています。

昨年1年間に同プラットフォームで発生した応募件数は9500万件を超えました。これは15~64歳の就業可能人口約3497万人が、1人当たり年間2.7回も新しい求人に応募したという計算になります。前年比で38.9%もの増加です。

さらに驚くべき数字が「転職提案の件数」。1200万件を超えています。つまり企業側からも、労働者に対して積極的にスカウトやヘッドハンティングを仕掛けているということ。一度でも応募経験のある求職者数は500万人を超え、1人当たり年間19回の応募を行っているという状況です。

累積の求人閲覧数は23億回。昨年1年間の新規会員数だけで356万人が増加しました。

かつて「転職は悪」「ひとつの企業に忠誠を尽くすべき」という価値観が強かった韓国。その常識が完全に塗り替わった瞬間を、こうした数字が如実に物語っています。

■AI時代の採用サービスが激変

プラットフォーム企業側も、こうした市場環境の変化に敏感に対応しています。注目すべきは、AI技術の導入によるサービス高度化です。

ジャブコリアが導入した「AI推薦2.0」は、求職者がこれまでより少ない求人情報を見ただけで、より多くの仕事に応募できるよう最適化されています。さらに「ハイテク産業」「AI関連職」「ビッグテック企業の注目求人」といった業種・職種別の専門カテゴリを新設。求人探索の密度を格段に上げています。

企業側向けには「スマートピック」という新しい広告商品を投入。閲覧数ベースで課金でき、採用成果をリアルタイムで追跡できるため、中小企業の間で好評を博しているとのこと。

アルバモン(アルバイト専門)の方も、「推薦機能」や「即日出勤・採用機能」を実装。さらに「アルバムムルボット」というAIプロンプトベースのチャットボットを導入し、ユーザーの滞在時間を延ばしたり、雇用主の利便性を高めたりしています。

■単なるプラットフォームから「人材エコシステム」へ

運営会社ワークスピアは、最近買収した企業レビュー・評判プラットフォーム「ジャブプラネット」とのシナジーにも期待しています。ジャブプラネットは月間アクティブユーザー150万人以上を擁する大型サービス。求人探索、企業情報確認、応募という採用全体プロセスを一連で繋ぐことが可能になります。

今年上半期には企業向けの統合管理センター「ハイアリングセンター」の開設も予定されています。これはジャブコリアとアルバモンに登録された全求人と応募者情報を、ひとつのダッシュボードで一括管理できるスペース。これまでサービスごとに散在していたデータを一元化し、求人登録から応募者情報、採用進捗まで一目で把握できるようにする試みです。

■働き方とキャリアの未来

ワークスピア代表のユン・ヒョンジュン(윤현준)は、こう述べています。

「9500万件を超える応募データは単なるトラフィックではなく、韓国の労働市場の流れを示す生きた指標です。当社はAIエージェント中心のプラットフォーム転換を通じて、『提案を受ける採用』時代への進化を加速し、企業と求職者双方により精密な接続体験を提供していく予定です」

つまり、今後の採用市場は、求職者が必死に履歴書を書いて企業に応募する時代ではなく、企業や人材紹介者がAIを使って「あなたにぴったりな職業機会」を自動提案してくれる時代へと移行していくということ。

ハン・ジミンが演じたドラマの台詞「自分の価値を認めてくれる場所へ移動する」という理想が、テクノロジーの力でより実現しやすくなる。それが今、韓国の労働市場で起きている劇的な変化なのです。

かつての「ひとつの企業に生涯を捧げる」という価値観は消滅し、「自分のキャリア価値を最大化する」という市場原理が、あたりまえの常識になった。それは同時に、働く側も企業側も、より最適なマッチングを求める熾烈な競争の時代へと突入したということかもしれません。

出典:https://www.hankyung.com/article/202602237871g

  • X

コメント

PAGE TOP