「韓国は夜道を一人で歩いても安全な国」――。韓国旅行に行ったことがある方や、韓国アイドルのVlog(ビデオブログ)を見ているファンなら、一度は耳にしたことがある言葉かもしれません。しかし今、韓国社会ではその「安全」という神話の裏側で、ある深刻な問題が浮き彫りになっています。それは、最も安全であるべき「家」や「恋人との空間」で女性が命を落とす、デートDVや「親密な殺人者」の存在です。
今回は、韓国の主要紙・ギョンヒャン新聞(경향신문)が主催したブックトークの内容をもとに、私たちが愛する韓国ドラマの描写とも深く関わる、この衝撃的なリアリティについてお伝えします。
■「愛しているから」という名の支配、強圧的統制とは?
3月11日、韓国国会の立法調査官(国会議員の立法活動をサポートする専門職)であるホ・ミンスク(허민숙)氏による著書『このように親密な殺人者(이처럼 친밀한 살인자)』の出版を記念したイベントが開催されました。
ホ・ミンスク氏は、2025年の調査で「恋人などパートナーから身体的・性的・情緒的な暴力や統制を受けた経験がある成人女性」が約19.2%、つまり5人に1人にのぼるという衝撃的なデータを提示しました。さらに、2025年の1年間だけで、夫や恋人に殺害された女性は(報道されたものだけでも)137人に達しています。
ここで注目すべきキーワードが「強圧的統制(きょうあつてきとうせい)」です。
これは、暴力が振るわれる前段階で見られる「支配」のサインです。例えば、あるバラエティ番組では、家にホームカメラを設置して妻を監視し、体重を毎日量らせたり、運動を強制したりする夫の姿が放送されました。番組ではこれを「妻への愛」や「健康管理」として微笑ましく描いていましたが、ホ・ミンスク氏はこれこそが極めて危険な兆候だと指摘します。
「誰と会っているか写真を撮って送らせる」「大学に行かないという誓約書を書かせる」といった行動は、一見すると独占欲のようにも見えますが、実際には相手の自由を奪い、自分に従属させるための「暴力のプロローグ」なのです。
■韓国ドラマの定番シーンに潜む文化的な危うさ
なぜ、こうした支配やコントロールが「危険な信号」として正しく認識されないのでしょうか。ホ・ミンスク氏は、その背景に韓国の「文化的支配」があると分析します。
ここで、私たち韓流ファンにとっても無視できない指摘がなされました。それは、ドラマの中のロマンスの描き方です。
韓国ドラマでは、男性主人公が女性主人公の手首を強引に掴んで連れて行く「手首掴み(ソンモクチャプキ)」のシーンがよく登場しますよね。かつては「男らしい」「情熱的」とときめきの対象として描かれてきましたが、ホ・ミンスク氏はこう断言します。
「これは本来、暴行でありわいせつ行為です。しかしドラマでは、女性が男性を訴えて勝訴して終わるのではなく、『お兄さんは私をあんなに愛してくれていたんだ』という結末になります。男性が女性をコントロールすることを当然視する文化が、こうした強圧的な態度を自然なものとして受け入れさせてしまっているのです」
韓国では「儒教(じゅきょう)」的な価値観からくる家父長制の名残もあり、「自分の女なら自分の言う通りにすべきだ」という歪んだ所有欲が、加害者の心理的な底流にあるといいます。私たちがドラマで楽しんでいる「強引な愛」が、現実の世界では深刻な支配の正当化に使われてしまうという事実は、非常に重く受け止める必要があります。
■「別れ」が最も危険な瞬間に。私たちにできること
ホ・ミンスク氏が最も強調したのは、被害者が「拒否の意思を示したとき」が最も危険であるという点です。
別れを切り出した際、相手が最も暴力的になることを経験すると、被害者は恐怖から関係を断つことができなくなります。周囲は簡単に「別れればいいのに」と言いますが、その一歩が命がけの選択になることもあるのです。
また、韓国の法制度の課題についても触れられました。性暴力被害には「死に物狂いで抵抗すること」を求める一方で、家庭内暴力やデートDVで抵抗すると「双方が暴力を振るった(双方暴行)」とみなされる矛盾。国家が暴力の本質を理解していないのではないかという厳しい指摘です。
「加害者は狂った人ではないし、被害者は愚かな人ではありません。これは『運が悪かった』で済ませていい問題ではなく、社会の構造を変えなければならない問題なのです」とホ・ミンスク氏は訴えます。
韓国のエンターテインメントは、時に社会の不条理を鋭く描き、私たちに多くの気づきを与えてくれます。一方で、私たちが「憧れ」を抱く演出の中に、現実の苦しみが隠れていないか、一度立ち止まって考えてみることも、作品をより深く愛することに繋がるのかもしれません。
皆さんは、ドラマの中の「強引なアプローチ」について、どう感じたことがありますか?最近のドラマではこうした描写





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