韓国エンタメ界を長年支え続け、多くの後輩俳優たちから「真の芸術家」と慕われた名優が、静かにその生涯を閉じました。
2024年3月1日、元老俳優のオ・ヒョンギョン(오현경)さんが、療養中の施設にて息を引き取りました。享年88歳。2023年に脳出血で倒れてから約半年間、懸命な闘病生活を続けてきましたが、ついに帰らぬ人となりました。
日本の韓流ファンの中には「オ・ヒョンギョン」という名前を聞いて、ドラマ『王(ワン)家の家族たち』などで知られる人気女優を思い浮かべる方もいるかもしれません。しかし、今回お伝えするのは、韓国演劇界・放送界の「生きた証人」とも呼ばれた、大御所の男性俳優オ・ヒョンギョンさんです。
今回は、彼が歩んだ情熱あふれる俳優人生と、韓国芸能界に遺した功績を振り返ります。
■ 「万年課長」から「映画界の重鎮」へ:お茶の間に愛された名演
オ・ヒョンギョンさんは1936年生まれ。高校時代から演劇の魅力に取り憑かれ、1961年に韓国の公共放送局であるKBSの「特例採用(特採)タレント」としてデビューしました。
「特例採用」とは、当時の放送局が演劇界などで活躍していた実力派を直接スカウト、あるいは公募とは別枠で採用した制度のことで、彼はまさに放送開始初期のスター候補生でした。
彼の名を一躍全国区にしたのが、1987年から放送されたKBSのオフィスドラマ『TV孫子兵法(TV손자병법)』です。この作品で彼は、うだつの上がらない「万年課長」のイ・ジャンス役を熱演。当時の韓国は高度経済成長期の真っ只中で、会社のために粉骨砕身するサラリーマンたちの哀愁を見事に表現した彼の演技は、国民的な共感と人気を呼びました。
その後も活動の幅を広げ、近年では映画『後宮(ふぐん)の秘密(후궁: 제왕의 첩)』や、ソン・ガンホ(송강호)主演の映画『王の願い ハングルの始まり(나랏말싸미)』など、話題作にも出演。年齢を感じさせない老練な演技で、スクリーンに重厚な存在感を与えていました。
■ 亡き妻への深い愛と、命を削って立ち続けた舞台への情熱
オ・ヒョンギョンさんの人生を語る上で欠かせないのが、2017年に先立たれた妻であり、同じく名女優として知られたユン・ソジョン(윤소정)さんとの物語です。
ユン・ソジョンさんは日本でもヒットしたドラマ『猟奇的な彼女(SBS版)』などに出演していたベテラン女優で、二人は韓国芸能界きってのおしどり夫婦として有名でした。愛妻家だったオ・ヒョンギョンさんは、妻が敗血症で急逝した際、「集中治療室で言葉一つ交わせずに逝かせてしまったのがあまりに辛い。小言ばかり言ってストレスを与えていたのではないかと申し訳なくてならない」と、深い悲しみを口にしていました。
最愛のパートナーを失った後、オ・ヒョンギョンさん自身も食道がんや胃の手術を受けるなど、健康状態が悪化。しかし、彼の演技に対する情熱が消えることはありませんでした。
驚くべきことに、亡くなるわずか1年前の2023年にも、シェイクスピアの喜劇『真夏の夜の夢(한여름 밤의 꿈)』の舞台に立っていたのです。体調が万全ではない中、若い後輩たちと同じ舞台で汗を流す彼の姿は、まさに「舞台に命を懸けた真の芸術家」そのものでした。
■ 韓国の「儒教的価値観」と「元老俳優」への深い敬意
韓国では、オ・ヒョンギョンさんのようなキャリアの長い俳優を「ウォンロ(元老)俳優」と呼び、特別な敬意を払います。これは目上の人を敬う「儒教的価値観」が根付いている韓国ならではの文化で、現場では監督さえも大先輩である彼らに最大限の礼を尽くします。
彼が亡くなった際、多くの後輩たちが「最後まで舞台を守り抜いた姿を忘れない」と追悼の意を表したのは、単なる形式ではなく、彼が示し続けた「役者としての矜持」に対する心からの尊敬の現れでした。
奥様が待つ天国へと旅立ったオ・ヒョンギョンさん。闘病の苦しみから解き放たれ、今は向こう側で大好きな芝居の話に花を咲かせているかもしれません。
韓国ドラマや映画を支えてきた伝説の「おじいちゃん俳優」たちの活躍は、作品に深みを与える欠かせない要素です。皆さんがこれまで見た韓国作品の中で、特に印象に残っているベテラン俳優さんや、心に響いた名シーンはありますか?ぜひコメント欄で教えてくださいね。
出典:https://www.tvreport.co.kr/entertainment/article/1006379/
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