なぜ82年生まれ、キム・ジヨンは今も叩かれるのか?韓国芸能界を揺るがす思想検閲の正体

韓国文学として異例の全世界的な大ヒットを記録し、日本でも社会現象を巻き起こした小説『82年生まれ、キム・ジヨン(82년생 김지영)』。作家のチョ・ナムジュ(조남주)氏が2016年に発表したこの作品は、韓国国内だけで100万部以上を売り上げ、30カ国以上で翻訳されるなど、現代韓国文学の金字塔となりました。

しかし、出版から10年が経過しようとする今もなお、韓国社会においてこの本は「熱いジャガイモ(触れると火傷するような議論の的)」であり続けています。最近も、ある女性アスリートがSNSにこの本の表紙と感想をアップしただけで、ネット上で激しいバッシングを浴びるという事態が起きました。

なぜ、一冊の小説がこれほどまでに「恐れられ」、それを手にする女性芸能人たちが攻撃の対象となってしまうのでしょうか。韓国メディア「女性新聞」のコラム(執筆:ミン・ジヒョン(민지형)作家)をもとに、その背景を紐解きます。

■ 「読んだだけで批判」という異常事態。ターゲットにされる女性スターたち

これまで、この作品と「関わった」ことで、想像を絶するような非難や嘲笑にさらされた女性有名人は一人や二人ではありません。

例えば、ある人気アイドルグループのメンバーが「この本を読んだ」と明かしただけで、一部の男性ファンが彼女のフォトカードやアルバムを燃やしてSNSにアップするという衝撃的な事件がありました。また、歌手出身のある女優は、映画版『82年生まれ、キム・ジヨン』の試写会の投稿に「いいね」を押しただけで執拗な嫌がらせを受けました。

映画版で主演を務めた女優のチョン・ユミ(정유미)も、出演が決定した段階から凄まじい悪評にさらされました。興味深いのは、同じ作品を推薦したり出演したりした男性有名人や政治家たちは、ほとんどバッシングを受けていないという点です。女性が「キム・ジヨン」に共感を示すことだけが、なぜか「過激な思想を持っている」というレッテル貼りに繋がってしまうのです。

これは韓国で「思想検閲」とも呼ばれる現象です。韓国には今もなお根強く残る儒教的な価値観や、近年の深刻な就職難などを背景とした「ジェンダー対立(젠더 갈등)」という社会問題があります。特に一部の若年層男性の間で「女性ばかりが優遇されている」という不満が高まっており、女性の生きづらさを描いたこの作品が、彼らにとっては自分たちを攻撃する「武器」のように見えてしまうのかもしれません。

■ 統計に基づいた「あまりにも平凡な物語」がなぜ否定されるのか

コラムの筆者であるミン・ジヒョン氏は、「この小説を読んだことがなぜ問題なのか」と問いかけます。

この物語は、決して男性を無差別に攻撃したり、殺害を美化したりする過激な内容ではありません。むしろ、嫁としての立場、育児に奮闘する母親の苦悩など、韓国のテレビドラマでも繰り返し描かれてきた「伝統的で普遍的な女性の苦しみ」を淡々と描いています。

特筆すべきは、この小説には多くの「脚注」がついている点です。新聞記事、統計庁の資料、公立機関のデータ、OECD(経済協力開発機構)の資料など、多くの客観的な事実に基づき、1982年生まれの女性が直面する現実を「レベル0」と言えるほど分かりやすく提示しています。

しかし、一部の人々はこれを「被害妄想」だと一蹴します。ミン氏は、これほど明らかなデータを突きつけられても否定するのは、理解力の問題ではなく「社会で女性が苦労していることを絶対に認めない」という強い意志の現れだと指摘しています。

■ 敵は隣にいる女性ではない。社会の構造に目を向けるべき時

韓国社会におけるジェンダー対立は、今や政治的にも利用されるほど深刻化しています。人権や権利は「誰かが得をすれば誰かが損をする」というパイの奪い合い(ゼロサムゲーム)ではありません。

ミン氏は、多くの若者が性別を問わず、過酷な競争社会の中で苦しんでいることは否定しないとした上で、「あなたの人生を辛くしているのは、隣にいる女性ではない」と強調しています。本来、責任を問うべきは社会のシステムや政治、制度であるはずなのに、最も攻撃しやすい対象である「有名人」や「女性」にその怒りをぶつけてしまっているのが今の韓国の現状なのです。

『82年生まれ、キム・ジヨン』が描いたのは、誰もが一度は見聞きしたことがあるはずの、お母さんや姉、妹、そして友人たちの「ありふれた日常」です。この物語を恐れる必要がなくなる日は、いつ訪れるのでしょうか。

日本でも共感の嵐を呼んだ本作。皆さんはこの「キム・ジヨン論争」について、どう感じましたか?韓国の俳優さんやアイドルたちが、自由に好きな本を読み、感想を共有できる日が早く来ることを願わずにはいられません。皆さんの考えもぜひコメントで教えてくださいね!

出典:https://www.womennews.co.kr/news/articleView.html?idxno=274917

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