韓ドラ時代劇に頻出する「京城(キョンソン)」とは?日帝時代のソウルがドラマ舞台になる理由

「京城(キョンソン)って、ソウルとは違うの?」

『京城クリーチャー(경성크리처)』『京城スキャンダル』『密偵(밀정)』『暗殺(암살)』『東柏のいた家(동백꽃 필 무렵)』——韓ドラ・韓国映画のタイトルや劇中によく登場する地名「京城(경성/キョンソン)」。「ソウルのことだろうけれど、なぜ違う名前で呼ぶの?」と疑問に感じたことはありませんか?

これは単なる呼び名の違いではなく、日本統治時代(1910〜1945年)のソウルを指す特別な歴史的名称です。なぜ現代の韓国エンタメがこの時代に何度も立ち戻るのか、その魅力と背景を深く掘り下げていきましょう。

「京城」とは何か?

「京城(경성/キョンソン)」は、1910年から1945年までの日本統治時代に、現在のソウルを指して使われていた地名です。当時、朝鮮半島は日本の支配下に置かれ、首都は「京城府(경성부)」と呼ばれていました。

歴史を遡れば、朝鮮王朝時代のソウルは「漢城(한성/ハンソン)」「漢陽(한양/ハニャン)」と呼ばれていました。1910年に日本統治が始まると、これが「京城」に変更されたのです。「京」は首都、「城」は城壁都市の名残。今でも韓国の歴史ドラマには「京城」「漢城」「漢陽」が時代ごとに使い分けられて登場します。

そして1945年の解放後、京城は「ソウル(서울)」に改称されました。「ソウル」は韓国固有語で「首都」を意味する言葉。日本統治時代の名残を断ち切る、新しい時代の名前です。

「京城時代」の独特な空気

京城時代(1910〜1945年)は、韓国の歴史の中でも特に複雑で、感情的にも語りにくい時期です。それでも韓ドラ・韓国映画が繰り返しこの時代を描くのは、独特の「ビジュアル的・感情的な魅力」があるからです。

1. ハンボクと西洋ファッションの共存

京城時代の街並みは、伝統的な韓服(ハンボク)と西洋風スーツ・ドレスが同じ画面に共存する独特の景観でした。古い瓦屋根の家と、近代的な石造建築。馬車と路面電車。ハンボクの女性とモダン・ガールが同じ通りを歩く——この視覚的なコントラストは、映像作品として極めて魅力的な素材です。

2. 「モダン・ボーイ」「モダン・ガール」の登場

この時代、京城には西洋文化に影響された「モダン・ボーイ(모던보이)」「モダン・ガール(모던걸)」と呼ばれる若者たちが登場しました。短く切った髪、洋装、カフェや喫茶店で過ごす生活——彼らはアジアの片隅に芽生えた、新しい都市文化の象徴です。

3. 抗日独立運動の舞台

京城は同時に、独立運動家たちが命がけで活動した街でもあります。秘密のアジト、地下印刷所、暗号で連絡を取り合う若者たち——歴史の重さとミステリー要素が両立した、ドラマチックな舞台でもあるのです。

4. 文化人・知識人の活動

この時代、京城には作家、画家、音楽家、新聞記者などの文化人が集まり、独自の知的サロンが形成されました。李箱(이상)金素月(김소월)といった文学者たちは、京城の街角で人生を歩んだ存在として知られています。

京城を舞台にした代表的な韓国作品

『京城クリーチャー(경성크리처)』(2023〜)

Netflix制作のダーク・ファンタジー。1945年解放直前の京城を舞台に、パク・ソジュン(박서준)ハン・ソヒ(한소희)主演で繰り広げられるサバイバル物語。日本軍が秘密裏に行った人体実験の歴史的暗部に切り込みつつ、京城の街並みを精緻に再現したビジュアルが話題になりました。

『密偵(밀정)』(2016)

キム・ジウン監督、ソン・ガンホコン・ユ出演の作品。京城時代の独立運動家と密偵の心理戦を描いたサスペンス。歴史的事実をベースにしつつ、登場人物たちの内面の葛藤に深く踏み込んだ傑作です。

『暗殺(암살)』(2015)

チェ・ドンフン監督、チョン・ジヒョンイ・ジョンジェハ・ジョンウらが出演。1933年の京城・上海を舞台にした独立運動家たちの暗殺作戦を描いた歴史アクション。観客動員1,200万人超の千万映画として伝説の作品となりました。

『京城スキャンダル(경성스캔들)』(2007)

KBS2で放送されたドラマ。1930年代の京城を舞台に、軽妙なロマンス・コメディと抗日活動を融合させた作品で、京城時代を「重く描かないアプローチ」の先駆けとなりました。

『シンセゲ/新しき世界』(2013)

厳密には現代劇ですが、京城時代の組織構造や上下関係の遺産を引きずる組織描写が見どころ。京城時代の影響が、現代物にどう生きているかを学べる作品です。

なぜ韓国エンタメは「京城」を描き続けるのか

1. 「失われた時代」への想像力

朝鮮王朝時代と現代の間に挟まれた、この特殊な35年間は、韓国人にとって「もし日本統治がなかったら、自分たちはどんな国になっていただろう」という想像の余地が残る時代です。だからこそ、エンタメの中で何度も再演され、再解釈され続けるのです。

2. 抵抗と犠牲の物語

京城時代は、抗日独立運動家たちが命を賭けて活動した時代でもあります。彼らの犠牲と勇気は、現代韓国人のアイデンティティの核となる物語です。エンタメはこれを「忘れないため」「次世代に伝えるため」に描き続けます。

3. ビジュアル的な美しさ

すでに触れたように、ハンボクと洋装、伝統建築と近代建築が混在する京城のビジュアルは、映像作品として圧倒的な魅力を持ちます。フィルム撮影でも、デジタル撮影でも、独特の質感を作り出せる「絵になる時代」なのです。

4. 新しい解釈の余地

歴史的事実が学校教育で詳細に教えられているからこそ、エンタメは「もしも」「別の視点」「個人の物語」として、京城時代に新しい切り口を提供できます。『京城クリーチャー』のようなSF・ホラー要素の融合は、その典型例です。

京城時代を学ぶための日本人向けキーワード

  • 独立運動家(독립운동가):日本統治への抵抗運動を行った人々。ユ・グァンスン(유관순)、アン・ジュングン(안중근)などが代表的。
  • 三・一運動(삼일운동):1919年3月1日に始まった全国規模の独立運動。京城が中心舞台となりました。
  • 京城帝国大学:日本統治下に設立された大学で、現在のソウル大学校の前身。
  • 京城放送局(경성방송국):1927年に開局した朝鮮初のラジオ放送局。
  • カフェ文化:京城時代のモダン・ガール・ボーイたちが通った、コーヒーを飲み洋楽を聴く社交場。現代韓国のカフェ文化のルーツとも言われます。
  • 創氏改名(창씨개명):日本統治末期の1940年に始まった、朝鮮人の姓名を日本式に変える政策。多くの韓国ドラマで登場する「重い設定」です。

京城を旅行で「追体験」する

現代のソウルにも、京城時代の建築物がいくつか残っています。

  • ソウル駅(구 서울역사):1925年に「京城駅」として開業した、ルネサンス様式の歴史的駅舎。現在は文化施設として保存されています。
  • 朝鮮ホテル:1914年に開業した京城時代の象徴的なホテル。現在は「ザ・ウェスティン朝鮮」として営業中。
  • 益善洞韓屋村(익선동 한옥마을):京城時代に開発された韓屋(伝統家屋)の街並みが残るエリア。現在は若者に人気のカフェエリアになっています。
  • 西大門刑務所歴史館:京城時代に独立運動家たちが収監された刑務所跡。重い歴史を学べる施設として、観光客にも開放されています。

豆知識:京城時代の意外なエピソード

  • 京城のジャズブーム:1920〜30年代の京城には、本格的なジャズバンドが活動し、レコード店も多数あったと言われています。
  • 映画館の繁栄:京城時代、ソウルには複数の映画館が営業し、ハリウッド映画や日本映画、朝鮮映画が上映されていました。観客層は当時から熱狂的だったと言われています。
  • 「モダン・ガール」のファッション:短いスカート、断髪、ハイヒール——当時の保守的な社会では「進歩的すぎる」と批判されつつも、自由を求めた女性たちの象徴でした。
  • 京城の発音:「キョンソン」と読みますが、当時の日本人は「ケイジョウ」と日本語読みすることもありました。これも当時の文化的二重性を象徴しています。

まとめ:「京城」を知ると、韓国エンタメが立体的になる

「京城(キョンソン)」というたった2文字には、35年間の抑圧、抵抗、近代化、葛藤、希望——韓国の現代史の核心が凝縮されています。だからこそ、エンタメ作品で京城が舞台に選ばれた時、それは単なる「昔のソウル」ではなく、韓国人が今も向き合い続ける記憶の場所として、深い意味を持って描かれるのです。

次に「京城」と冠した作品に出会ったら、ぜひ画面の奥に流れる時代の重みを感じながら観てみてください。エンタメの楽しさの裏に、韓国という国の歴史の鼓動が聞こえてくるはずです。

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