「あれ、おばあちゃんが好きな曲なのに、若者にも刺さってる?」
韓国の地下鉄、田舎の市場、家族の集まり、深夜のテレビ番組——あらゆる場所でふと耳にする、独特の哀愁ある歌声。日本人の耳には「韓国の演歌?」と聞こえるその音楽の名前は、「トロット(트로트)」と言います。
面白いのは、ここ数年このトロットが10代〜20代の若者にも本気で人気を集めていると言われていること。バラエティ番組『ミスター・トロット』のような番組から生まれたスターたちが、K-POPアーティスト並みのファンダムを獲得しています。今回はこの「韓国版演歌」が世代を超えて愛される理由を、深く掘り下げていきましょう。
トロットとは?
トロット(트로트)は、韓国を代表する大衆音楽ジャンルの一つです。日本の演歌とよく比較されますが、ルーツや作法には独自の発展史があると考えられています。一般的には「韓国式の演歌・歌謡曲」と理解されることが多いですが、もう少し正確に言えば「韓国の伝統的な情緒と、欧米のポピュラー音楽が融合した独自のジャンル」と言えるでしょう。
特徴は次のような点にあると言われています。
- 独特のビブラート:感情を込めた声の震えが、聴く人の心を揺さぶります。
- 「ト・ト・ト・ト」のリズム:曲名「トロット」の語源とも言われる、軽快な4拍子のビート。
- 哀愁あるメロディ:「恨(ハン)」と呼ばれる韓国独特の情緒が、メロディに深く染み込んでいると言われています。
- 歌詞のテーマ:失恋、故郷、人生、母への想い——人間の普遍的な感情を直接的に歌います。
トロットの歴史:100年の歩み
1920〜30年代:誕生
トロットの起源は、日本統治時代の1920〜30年代に遡ると言われています。当時、日本の「演歌」「歌謡曲」が朝鮮半島に流入し、それが韓国の伝統音楽と融合する形で生まれたという説が一般的です。語源は英語の「フォックストロット(fox trot)」というダンス音楽から来ているとも、ヤツメオの「ト・ト」というリズムの擬音から来ているとも言われています。
1950〜60年代:「ナム・インス時代」
朝鮮戦争後の混乱期から復興期にかけて、トロットは韓国国民の心の支えとなりました。ナム・インス(남인수)などのスターが活躍し、イ・ナニョン(이난영)は1930〜40年代に全盛期を迎えたトロット歌手ですが、1965年に没するまで活動を続けました。こうした歌手たちの存在により、トロットが「国民の音楽」としての地位を確立した時代と言われています。
1970〜90年代:大衆音楽の主流
テレビ時代の到来とともに、トロットは大衆娯楽の中心に躍り出ます。ナフナ(나훈아)、チョ・ヨンピル(조용필)、シム・スボン(심수봉)といった伝説的歌手が次々と現れ、いまも語り継がれる名曲が量産されました。
2000年代:低迷と再評価
K-POPの世界的成功と入れ替わるように、トロットは「古い音楽」「お年寄りの音楽」として若者から敬遠される時期に入ったと言われています。それでも農村部や中高年層の支持は揺るがず、脈々と命脈を保っていました。
2020年〜:『ミスター・トロット』ブームで大復活
2020年初頭、韓国全土で大きな話題を呼んだバラエティ番組『ミスター・トロット(미스터트롯)』の登場が、トロットの運命を変えたと言われています。視聴率35%超という驚異的な数字を叩き出し、優勝したイム・ヨンウン(임영웅)はトロット界のアイドル的存在へ。彼の登場で、トロットは「若者にも刺さるジャンル」として再評価されるようになりました。
「イム・ヨンウン現象」とは
『ミスター・トロット』優勝後、イム・ヨンウンの人気は留まるところを知りませんでした。トロットファンとしては異例の、K-POPアイドル並みの熱烈なファンダム「ヒーロー(영웅시대)」が形成され、彼のコンサートは数分でチケット完売、ファンクラブの組織力は非常に高い水準にあると言われています。
彼の魅力は、トロットらしい哀愁ある歌声に加えて、王道のクリーンなビジュアル、誠実で謙虚な人柄、徹底した自己管理など、K-POPアイドルが求められる要素を兼ね備えている点にあると言われています。「お母さんも娘も、おばあちゃんも一緒に推せるスター」として、世代横断的な現象を生み出したのです。
トロットがZ世代に刺さる理由
K-POPのような最先端音楽が溢れる現代の韓国で、なぜZ世代までトロットを愛するのでしょうか。いくつかの理由が挙げられています。
1. 「レトロブーム」との合流
2020年代の世界的な「ニュートロ(Newtro/Y2K回帰)」ブームに乗って、80〜90年代風のサウンドや美意識が再評価されています。トロットの哀愁ある音色は、新鮮なレトロサウンドとして若者の耳に届くようになったと言われています。
2. 短尺SNSとの相性
トロットの曲は、サビが分かりやすく感情の起伏もはっきりしているため、TikTokやYouTube Shortsとの相性が良いと言われています。15秒の切り抜きでもインパクトを与えられる構造を持っており、Z世代がトロットに出会う入り口の一つになっていると考えられています。
3. 家族で共有できる音楽
K-POPの最先端を追う若者と、トロットを愛する祖父母世代——その間で「家族みんなで聴ける音楽」として、トロットが意外な架け橋を担っているという見方もあります。世代間の文化共有は、近年韓国でも見直されている価値の一つと言われています。
4. 「歌唱力」への原点回帰
K-POPがダンスとビジュアルを前面に出すのに対し、トロットは純粋に歌唱力で勝負する世界であると言われています。「歌が上手いことに感動する」という原点的な楽しみ方が、新鮮に響いていると考えられています。
主なトロット番組と発掘システム
- 『ミスター・トロット』『ミス・トロット』(TV CHOSUN):男女別のトロットサバイバル番組。シーズンを重ねる人気コンテンツとなっています。
- 『私は歌手だ』『不朽の名曲』:トロットだけでなく、ベテラン歌手や名曲の再解釈を扱う番組。若手アーティストがトロット名曲をカバーすることで、ジャンル横断的な広がりを生んでいると言われています。
- 『風の歌』『歌謡舞台』:KBSの長寿音楽番組で、トロットの常連舞台。中高年層の支持を集め続けています。
日本人にも刺さる「ト・ロ・ット」の魅力
日本の演歌や昭和歌謡を懐かしく感じる方なら、トロットには響くものがあると言われています。逆に、K-POPファンの若い世代にとっても、最新トロットスターのMV・カバー曲・SNSのショート動画は、新鮮なエンタメ体験になるかもしれません。
特に韓国旅行で地下鉄やタクシーに乗ると、ふいに耳に飛び込んでくるトロットの歌声。あれは韓国の「日常のサウンドトラック」とも呼べる存在で、街の空気感を一気に韓国らしくしてくれます。
豆知識:知っておくと面白いトロット雑学
- 「ニュートロット」:トロットを現代風にアレンジした新しいジャンル。電子音やラップを取り入れた実験的なトロットが、Z世代の入口になっていると言われています。
- カラオケでの定番:韓国のカラオケ「ノレバン(노래방)」では、トロットは中高年の定番中の定番。若者も盛り上がる曲として歌うことがあると言われています。
- テレビCMの音楽:トロット曲は韓国のテレビCM、特に食品・酒類・地方都市の観光PRなどで頻繁に使われる、親しみやすさの象徴的なサウンドです。
- 北朝鮮への流入:トロットは北朝鮮にも流入していると言われ、共通の文化的記憶として南北を繋ぐ役割を担っているという見方もあります。
まとめ:100年続く「韓国の心」、世代を超えてアップデート中
トロットは、ただの古い音楽ではありません。日本統治時代から現代までの韓国の歩みを背負ってきた、「韓国人の集合的記憶」に近い音楽であると言われています。だからこそ、世代を超えて多くの人々が同じステージで盛り上がれるのかもしれません。
もしまだトロットを聴いたことがないなら、ぜひイム・ヨンウンの代表曲や、ナフナ・チョ・ヨンピルの名曲をYouTubeなどで一度試聴してみてください。K-POPとはまた違う、深く長く愛される音楽の力に出会えるはずです。
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