韓国のエンタメ界で、今や欠かせないコンテンツとなった「スルバン(술방)」。これは「お酒(スル)」と「放送(バンソン)」を掛け合わせた造語で、芸能人たちが実際にお酒を飲みながら本音トークを繰り広げるスタイルの番組を指します。
イ・ヨンジ(이영지)がホストを務める「もっとつまらないものですが(차린건 쥐뿔도 없지만)」や、ベテラン芸人シン・ドンヨプ(신동엽)の「乾杯する兄貴(짠한형)」など、日本でもYouTubeで字幕付きを楽しんでいるファンの方も多いのではないでしょうか?
しかし今、韓国ではこの「スルバン」ブームに対して、専門家から警鐘を鳴らす声が上がっています。きっかけは、あるベテラン俳優の不祥事と、あまりにも無防備なYouTubeの現状でした。
■ 「お酒に強い」と称賛された直後の飲酒運転。問われる芸能人の責任
ことの発端の一つは、韓国を代表するベテラン俳優のイ・ジェリョン(이재룡)氏が、YouTubeの飲酒コンテンツに出演した直後、飲酒運転で立件されたことでした。
番組内では、イ・ジェリョン氏の酒量の強さを「お酒の神様」のように持ち上げる場面があったといいます。韓国には古くから「お酒に強いこと=男らしい、かっこいい」という独特の情緒がありますが、その直後の事故だっただけに、世論の批判は一気に加速しました。
これを受けて、YTNラジオの番組「賢いラジオ生活」に出演した韓国放送通信大学校のチョン・ヨンイル(정영일)教授は、メディアの社会的責任についてこう指摘しています。
「根本的に、過去に飲酒事故の経歴がある方をキャスティングすること自体が問題の始まりではなかったかと思います。これはメディアの安全不感症と言わざるを得ません。彼らの影響力や社会的責任に対して、あまりにも自由すぎる(無責任な)決定でした」
韓国では近年、飲酒運転に対する罰則が非常に厳しくなっており、一度の過ちで芸能界追放状態になることも珍しくありません。そんな中で、お酒を美化する番組に出演させること自体、制作側の意識が問われているのです。
■ ガイドライン違反は99%!YouTubeは「無法地帯」なのか
チョン・ヨンイル教授によれば、政府による最新のモニタリング結果で、衝撃的な事実が判明しました。人気の飲酒コンテンツ100件のうち、なんと99件で「飲酒を美化する」などのガイドライン違反が見つかったのです。
それにもかかわらず、是正措置が取られたケースは1件もなかったといいます。これには、韓国特有の放送事情が関係しています。
韓国の地上波放送(KBS、SBS、MBCなど)は、儒教的な価値観や公序良俗を守るために非常に厳しい審査基準があります。ドラマの喫煙シーンにモザイクがかかるのもそのためです。しかし、YouTubeはこの規制の枠外。チョン・ヨンイル教授は「YouTubeは一種の無法地帯に近い」と表現しています。
特にお酒の作り方として「爆弾酒(ポクタンジュ/ビールと焼酎を混ぜる韓国式の飲み方)」の技術を面白おかしく紹介したり、酔い潰れて理性を失う姿を刺激的なエンタメとして消費したりする風潮に、専門家たちは強い危機感を持っています。
■ アルゴリズムが子供たちに届ける「お酒=成功者の証」
最も懸念されているのが、多感な時期にある青少年への影響です。
「アルゴリズムが勝手に見せてくるんです」
これは、実際に動画を視聴している若者たちの声です。YouTubeの特性上、一度興味を持つと次から次へと関連動画が流れてきます。憧れのK-POPアイドルや人気俳優が楽しそうにお酒を酌み交わし、深い絆を確かめ合う姿を見れば、子供たちの目には「お酒はコミュニケーションの魔法の道具」として映ってしまうでしょう。
チョン・ヨンイル教授はこう述べています。
「メディアで見る学生たちにとって、お酒を飲む姿は『かっこいい』『成功した姿』として映り、親睦を深める道具として受け入れられがちです。その結果、お酒への好奇心が強まり、飲み始める年齢が早まっているという研究報告もあります」
韓国では1月1日に「数え年」で一斉に年を取る習慣(現在は満年齢が主流になりつつありますが)もあり、大学入学と共に解放感から過度な飲酒に走る文化も残っています。そんな文化背景の中での「スルバン」ブームは、健康被害や依存症のリスクを助長しかねないというわけです。
■ ファンとしてどう向き合う?「推し」の健康を願う新しい形
もちろん、ファンにとっては「推しの酔った姿」は普段見られない素顔を知る貴重な機会です。お酒が入ることで語られるデビュー当時の苦労話や、メンバーへの熱い思いに涙したことがある方も多いはず。
ですが、最近の韓国では、ただ楽しむだけでなく「節酒(チョルス/お酒を控えること)」や「健康的な飲み方」を提唱する動きも出始めています。
「タバコに関しては、多くの芸能人が禁煙キャンペーンに参加し、公益的な活動をしています。しかし、飲酒に関しては、開始年齢を遅らせるような芸能人の活動はまだほとんど見られません。そこが惜しい部分です」と教授は語ります。
韓国エンタメが世界中で愛されている今、その影響力は計り知れません。だからこそ、コンテンツを作る側も、出演する側も、そして視聴する私たちファンも、「楽しさ」の裏にあるリスクを少しだけ意識してみる時期に来ているのかもしれません。
好きなスターには、いつまでも健康で、そして長く活躍してほしいーー。そんなファンの願いこそが、これからの韓国エンタメをより良い方向に変える力になるはずです。
推しがおいしそうにお酒を飲む姿は微笑ましいけれど、皆さんは最近の「スルバン」ブームをどう感じていますか?お気に入りの番組や、逆に「これはちょっと心配だな」と思ったエピソードなど、ぜひ皆さんの率直な感想をコメントで聞かせてくださいね!
出典:https://radio.ytn.co.kr/program/?f=2&id=107803&s_mcd=0433&s_hcd=01
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