いま、韓国のエンターテインメント界で最も熱いキーワードをご存じでしょうか? それは「ヨソンソサ(여성 서사)」、日本語で「女性叙事」を意味する言葉です。これは単に女性が主人公というだけでなく、女性の生き様や内面、社会との葛藤を多層的に描き出す物語を指します。
この秋、ソウルの文化の象徴とも言える世宗文化会館(세종문화회관 / ソウルの光化門にある韓国を代表する総合芸術施設)では、この「女性叙事」をテーマにした2つの大きな舞台が幕を上げ、観客を熱狂させています。一つは伝説的な再演として待ち望まれていたミュージカル、もう一つは古典を現代的に再解釈したオペラです。なぜ今、韓国でこれらの作品がこれほどまでに注目を集めているのか、その背景とともに紐解いていきましょう。
■圧巻の「女性10人のアンサンブル」が放つエネルギー:ミュージカル『ベルナルダ・アルバ』
まず、演劇ファンの間で大きな話題となっているのが、世宗文化会館のMシアターで上演されているミュージカル『ベルナルダ・アルバ(베르나르다 알바)』です。スペインの詩人フェデリコ・ガルシア・ロルカの戯曲を原作としたこの作品は、2018年の初演時に「韓国ミュージカル界の歴史を塗り替えた」とまで絶賛されました。
物語の舞台は、家長である夫を亡くしたばかりのベルナルダ・アルバの家。彼女は8年間にわたる厳しい服喪を娘たちに強います。舞台に立つのは、母ベルナルダと5人の娘、そして老婆や使用人を含む計10人の女性キャストのみ。男性キャラクターは一切登場せず、徹底して「抑圧される女性たちの内面」にスポットが当てられます。
特筆すべきは、韓国を代表するベテラン女優たちの競演です。今回の公演には、ミュージカル界の女王として知られるチョン・ヨンジュ(정영주)や、映画・ドラマでも強烈な存在感を放つファン・ソクジョン(황석정)といった、実力派たちが名を連ねています。
韓国では近年、女性同士の連帯や対立をダイナミックに描く作品が、若い女性層を中心に爆発的な支持を得ています。これは、儒教的価値観が根強く残る韓国社会において、自分らしく生きようとする女性たちの切実な叫びが、観客の心に強く響いているからだと言えるでしょう。フラメンコの激しいリズムに乗せて、抑圧された感情を爆発させる彼女たちの姿は、観る者に言葉を選ばない感動を与えてくれます。
■古典を現代の視点で塗り替える:オペラ『ヴェニスの商人』が描く知恵と勇気
一方、世宗文化会館の大劇場で上演されたのが、シェイクスピアの名作をオペラ化した『ヴェニスの商人(베니스의 상인)』です。通常、この作品といえば強欲な高利貸しシャイロックや、友情に厚いアントニオが主役として語られがちですが、今回の公演でスポットが当たったのはヒロインのポーシャでした。
これまでの『ヴェニスの商人』におけるポーシャは、男装して法廷に立ち、知恵を絞って夫の友人を助けるものの、最終的には「賢く美しい妻」という枠に収まることが一般的でした。しかし、演出を手掛けたイ・ギョンジェ(이경재)は、彼女をより現代的な「主体的な女性」として描き出しました。
韓国の演出家たちは、古典を単なる「過去の遺物」として上演するのではなく、現代の観客、特にMZ世代(1980年代〜2000年代初頭に生まれた若者層)が共感できるメッセージを盛り込むことに非常に長けています。ポーシャが自らの運命を切り開き、社会の矛盾に立ち向かう姿は、まさに現代韓国で求められている「新しい女性像」そのものなのです。
■舞台とドラマの垣根を超えた「表現者たち」の情熱
日本の韓流ファンの皆さんにぜひ注目していただきたいのは、こうした舞台作品で活躍する俳優たちが、後にドラマや映画で大ブレイクするケースが非常に多いという点です。
例えば、大ヒットドラマ『賢い医師生活(슬기로운 의사생활)』の主演を務めたチョン・ミド(전미도)も、もともとはミュージカル界のトップスター。韓国では「大学路(대학로 / ソウルにある劇場が密集する演劇の聖地、日本の下北沢をより大規模にしたような街)」で実力を磨いた俳優たちが、ドラマ界を支えるという確固たるエコシステムが存在します。
今回の『ベルナルダ・アルバ』に出演している俳優たちも、画面越し





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