韓国エンタメが世界を席巻する今、その華やかなステージの裏側で「アーティストの権利」が大きな転換点を迎えています。
皆さんは、イ・スンギ(이승기)とペ・スジ(배수지)が主演し、日本でも大ヒットしたファンタジー時代劇「九家の書(구가의 서)」(2013年)を覚えていますか? そのメインOST「My Eden」を歌い、その圧倒的な歌唱力でファンを魅了したポップペラ歌手のイサベル(이사벨)をご存じでしょうか。
現在は、融合コンテンツ企画会社「ビリーバース」の代表を務めるチョ・ウジョン(조우정)さんが、今の韓国文化界が抱える「光と影」について、非常に重要な提言を行いました。
■ 世界的人気の裏で続く「情熱ペイ」という悪習
チョ・ウジョン代表は、現在のK-カルチャーについて「世界的な地位は高まっているが、現場の芸術家たちは依然として不安定な環境に置かれている」と警鐘を鳴らしています。
ここで彼女が指摘したのが、韓国社会でたびたび問題となる「情熱ペイ(열정페이/ヨルジョンペイ)」という慣習です。
※「情熱ペイ」とは:
「君には才能がある」「これはいい経験になるから」という言葉を盾に、若者やアーティストに無給、あるいは極めて低い賃金で労働を強いる慣習のことです。韓国の激しい競争社会の中で、「夢を叶えるためなら犠牲は当たり前」という考え方が背景にあります。
チョ・ウジョン代表は、「契約書のない『情熱ペイ』の慣習は、もうなくさなければならない」と強く主張しています。口頭での契約や不公正な契約、さらには標準契約書があっても実効性が乏しい現状があるというのです。
特に、個人のアーティストが巨大な制作会社や団体を相手に権利を主張するのは、韓国の芸能界では非常に勇気がいることです。チョ・ウジョン代表は、「業界で『目をつけられる(찍히다/チッキダ)』ことを恐れて、問題を提起できないケースも少なくない」と語っています。この「チッキダ(目をつけられる、烙印を押される)」という感覚は、上下関係や人脈を重視する韓国社会において、キャリアを失いかねない非常に重い言葉として響きます。
■ 「K-エンタメ版・労働組合」の必要性
では、どうすればアーティストを守れるのでしょうか? チョ・ウジョン代表が解決策として提示したのは、アメリカのモデルです。
アメリカには、俳優組合(SAG-AFTRA)やオペラ・ダンサー組合(AGMA)といった強力な職能団体があります。これらは単なる親睦会ではなく、賃金基準の交渉、法的支援、さらには肖像権の保護までを統合的に管理し、制作側と対等に渡り合います。
「韓国にも協会や団体はありますが、権益を保護する機能が分散しており、強制力が弱いのが現状です」とチョ・ウジョン代表。彼女は、標準契約書の管理から団体交渉権、福祉基金、さらには紛争調整までをワンストップで行える「統合システム」の構築を提案しています。
韓国では現在、HYBE(ハイブ)やSMエンターテインメントといった「Big4」と呼ばれる巨大事務所の影響力が非常に強いですが、こうしたシステムができることで、所属アーティストやフリーランスの芸術家たちがより安心して活動できる土壌が整うかもしれません。
■ AI時代だからこそ輝く「人間の感性」
また、今回のインタビューで興味深かったのが、急速に普及するAI技術についての見解です。
最近の韓国では、AIを活用した「バーチャルアイドル」やデジタル技術を駆使したコンテンツが次々と誕生しています。しかし、チョ・ウジョン代表は「技術が発展すればするほど、人間固有の創造性と感性、そして生(なま)の公演が持つ価値はいっそう明確になるだろう」と断言しています。
彼女が率いる「ビリーバース」では、韓国の歴史的な偉人をテーマにしたデジタル・ポップペラ・コンサート「青年・金大建(キム・デゴン)」などを制作しています。デジタル技術を「芸術を切り捨てるもの」ではなく、「芸術をより広く、新しく伝えるための道具」として融合させる試みを続けているのです。
■ 歌手イサベルから「文化界のリーダー」へ
チョ・ウジョン代表は、かつてアメリカのサンフランシスコ・オペラ団のプリマドンナとして活躍した正統派のクラシック・アーティストでもあります。韓国ではスポーツの国際大会などで何度も国歌を斉唱し、「愛国歌(エグッカ)のアイコン」と呼ばれるほど国民的な信頼も厚い人物です。
そんな彼女が、自身の経験をもとに「芸術家が尊重される社会こそが、真の文化強国を作る」と訴える姿は、多くの現役アーティストに勇気を与えています。
「文化はコンテンツだけで完成するのではない。芸術家が尊重される構造が土台となってこそ、初めて文化強国になれる」
この言葉は、私たちが日々楽しんでいるドラマやK-POPの1つひとつに、どれほどの情熱と、そして守られるべき権利が詰まっているかを改めて教えてくれます。
大好きな「推し」が、より公平で安全な環境で、その才能を存分に発揮し続けられる未来。ファンとしても、そんな変化を一緒に応援していきたいですね。
皆さんは、K-POPや韓国ドラマの現場環境について、以前と比べて変わってきたと感じることはありますか? 好きなアーティストが安心して活動できる仕組みについて、ぜひ皆さんの考えをコメントで教えてください!
出典:http://www.fnnews.com/news/202603030953195031
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