韓国俳優のあの声でポルトガル語を話す?Kコンテンツの言語障壁を壊すAIダビング技術の最前線

Buzzちゃんの見どころ

韓国のスタートアップ「AnAI」が開発したAIダビング技術は、俳優本人の声色や感情を維持したまま多言語へ変換可能です。従来2ヶ月を要した作業を10日に短縮し、南米などグローバル市場への進出を加速させています。

■ Kコンテンツの世界的躍進と「言語」という最後の壁

現在、ネットリミテッド(NetflixなどのOTTサービス)で韓国ドラマが世界を席巻し、K-POPアイドルのコンサートがブラジルで完売するなど、Kコンテンツの地位は単なる文化現象を超え、国家競争力の指標となっています。2025年12月に発表された「世界で最も影響力のある国」ランキングでは、韓国がフランスを抑えて7位を記録しました。文化体育観光部の統計によれば、2024年のコンテンツ産業輸出額は約141億ドル(約2兆1000億円)に達し、過去最高を更新しています。

しかし、Kコンテンツが真のグローバル化を果たす上で、依然として最大の障壁となっているのが「言語」です。字幕は視聴者の視線を画面から分散させ、従来のダビングはオリジナルの俳優が持つ繊細な感情を消し去ってしまうという課題がありました。さらに、60分番組10話を現地化するには、2ヶ月以上の時間と数億ウォンのコストがかかるため、多くの中小制作会社が海外進出を断念する原因となっていました。

■ 俳優の声を学習し他言語で再現する「VOIX Enterprise」

2024年に設立されたスタートアップ企業「AnAI(オンエイアイ)」は、この問題を独自の音声AI技術で解決しようとしています。同社の核心的なソリューションは、B2B(企業間取引)向けのAIダビングエンジン『VOIX Enterprise』です。

この技術の最大の特徴は、単に翻訳された台本を機械音声で読み上げるのではなく、映像内の俳優の声をAIが学習し、その俳優と同じ音色、同じニュアンスで他言語のセリフを生成する点にあります。例えば、韓国人俳優の声のまま、流暢なポルトガル語やスペイン語で演技をしているかのように聞こえるのです。

技術的には、音声をテキスト化するSTT(Speech-to-Text)、テキストを音声化するTTS(Text-to-Speech)、翻訳、そして音声の後処理までを一元化したパイプラインで構築しています。ここに、表情や声のトーン、感情の動きを分析する「DynEX-Engine」を組み合わせることで、放送スタジオレベルの品質を実現しました。これにより、従来2ヶ月かかっていたダビング作業をわずか10日ほどに短縮することに成功しています。

すでにこの技術は、KT ENA、CJ ENM、JTBCといった韓国の主要放送局や、Rakuten Viki(アジアドラマを中心とした米国の動画配信サービス)などで導入が始まっています。

■ なぜブラジルなのか?戦略的な市場選択の理由

AnAI社の代表を務めるキム・ヨン(김영)氏は、市場戦略において独特な視点を持っています。同社がまずターゲットに据えたのは、南米のブラジル市場です。

先進国のOTT市場は大手が独占していますが、南米では広告ベースの無料ストリーミングサービスである「FASTチャンネル」の需要が非常に高まっています。Kコンテンツへの関心は強いものの、ポルトガル語への翻訳・ダビングコストが非常に高いため、コンテンツの供給が追いついていないのが現状です。AnAIはこの高い技術的障壁を、あえて「参入障壁」として利用し、競合の少ない市場でのシェア拡大を狙っています。

一方で、日本市場に対しては慎重な姿勢を見せています。日本語は韓国語と語順が似ているため技術的な実装は容易ですが、日本は自国コンテンツへの好みが強く、また声優文化が非常に成熟しているためです。声優に対する職業的な尊敬が強く、単なる「コスト削減」という論理だけではAIダビングを受け入れにくい文化的土壌があることを、同社は冷静に分析しています。

■ AI時代における「人間」の役割と文化の翻訳

AnAIはAI企業でありながら、人的リソースを非常に重視しています。言語とは単なる置換ではなく、文化の理解が必要な領域だからです。

例えば、韓国の特定の地域で有名な「聖心堂(ソンシムダン/大田にある有名なベーカリー)」という単語が登場した際、そのまま「有名なパン屋」と訳すだけでは文脈が伝わりません。現地の視聴者が直感的に理解できるよう、その国で同等の知名度を持つ場所の名前に置き換えるといった判断は、現地の文化に精通した人間にしかできません。

そのため、同社では各言語ごとに現地スタッフを配置し、AIが生成したダビングの最終チェックを行っています。キム・ヨン代表は「AIが翻訳家の仕事を奪うのではなく、コストの問題で今まで海外に出せなかったコンテンツが流通することで、むしろ翻訳や監修の需要が増えるはずだ」と語っています。

同社は2026年末に、一般ユーザーやネイティブの編集者が検収に参加できるリワード型プラットフォーム『VOIX ON』のベータ版リリースも予定しており、さらなる言語拡張を目指しています。

出典:https://www.chiefexe.com/news/ArticleView.asp?listId=NDg5NHx8bGltaXRfZmFsc2Ug

📚 Buzzちゃんの豆知識

■ 聖心堂(ソンシムダン)

韓国の忠清南道・大田(テジョン)広域市にある、1956年創業の非常に有名なベーカリーです。韓国の「3大ベーカリー」の一つに数えられることも多く、特に「揚げそぼろパン(テギムソボロ)」が名物として知られています。ソウルに店舗を出さないという経営方針でも有名で、地域を象徴する文化財のような存在です。

■ FASTチャンネル

「Free Ad-supported Streaming TV」の略で、インターネットを通じて無料で視聴できる広告付きのテレビ放送のようなサービスです。Netflixなどの月額課金制(SVOD)とは異なり、従来の地上波放送のように決まった時間に番組が流れるスタイルですが、スマートテレビなどを通じて気軽に視聴できるため、世界的に利用者が急増しています。

Buzzちゃんの感想

私は『財閥家の末息子』のように、俳優さんの緊迫した演技を楽しむドラマが大好きなんです。だからこそ、今までは「声」を含めて演技だと思って字幕派を貫いてきました。でも、この技術でソン・ジュンギ(송중기)さんのあの素敵な声のまま他言語が聞けるなら、ちょっと試してみたいかも!皆さんはお気に入りのドラマを観る時、本人の声が聞ける字幕派ですか?それともストーリーに集中できるダビング派ですか?

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