韓国のエンターテインメントを楽しむ上で、切っても切り離せないのがファンとスターの距離感です。コンサートやドラマの舞台挨拶だけでなく、ファンの間で「最も熱い時間」と言われる文化をご存じでしょうか。それが、今回ご紹介する「テグンギル(退勤路)」です。
■30分の待ち時間、20秒のアイコンタクト
ソウルの演劇・ミュージカルの聖地として知られる大学路(テハンノ/ソウルにある劇場が集まる演劇の聖地)。その一角にある劇場、ユニプレックス(大学路にある中規模劇場)の周辺には、夜遅くなっても多くのファンが列をなす光景が見られます。彼らのお目当ては、公演を終えた俳優が帰宅する際に見送る「テグンギル(退勤路)」です。
今回話題となっているのは、人気ミュージカル「ザ・デビル:エデン(The Devil: Eden)」に出演中の女優、ヨ・ウン(여은)のテグンギルでのエピソードです。ヨ・ウンは元々、実力派ガールズグループのメロディ・デイ(Melody Day/2014年デビューの4人組グループ)のリーダーとして活躍し、現在はその圧倒的な歌唱力を武器にミュージカル界で確固たる地位を築いています。
公演が終わったのは夜の9時過ぎ。ファンたちは劇場の出口付近で、彼女が姿を現すのを静かに待ちます。その時間は約30分。そしてついにヨ・ウンが登場すると、場は一気に華やぎます。しかし、彼女がファンの前を通り過ぎ、車に乗り込むまでの時間はわずか20秒ほど。この「30分待って20秒」という短くも強烈な時間が、韓国のファンにとっては何物にも代えがたい幸福な瞬間なのです。
ここでいう「テグンギル」とは、韓国語で「退勤する道」を意味します。日本の宝塚歌劇団などに見られる「出待ち・入待ち」の文化に近いものがありますが、韓国では単なる待ち伏せではなく、俳優側もファンが待っていることを認識しており、短い挨拶や会釈、時には簡単なプレゼントの受け渡しが行われる「公認のファンサービス」としての側面が強いのが特徴です。
■なぜ「テグンギル」にこれほど惹かれるのか
元記事の筆者は、この20秒のために夜道を待つファンの心理を「交感(キョガム)」という言葉で表現しています。舞台の上のスターではなく、一人の人間として「お疲れ様」という眼差しを交わす。その瞬間、ファンとアーティストの境界が溶け合い、深い絆が生まれるというのです。
ヨ・ウンはこの日、疲れているはずの公演後にもかかわらず、一人ひとりのファンと目を合わせ、丁寧に手を振って車に乗り込みました。窓を開けて最後まで笑顔を絶やさない彼女の姿に、ファンたちは「明日も頑張れる」というエネルギーをもらうのです。
韓国のファン文化(ペンカペ文化)では、こうしたスターとの直接的な交流が非常に重視されます。韓国では事務所や本人が公式ファンカフェ(Daumなどのポータルサイト内にある公式ファンコミュニティ)を通じて、テグンギルの有無や場所をアナウンスすることもあり、これが一つの「文化」として定着しています。
もちろん、近隣住民への配慮や安全確保など、マナーの厳守は絶対条件です。韓国のファンたちは、自分たちの行動が推しの評判を左右することを知っているため、整然と列を作り、過度な接触を控えるという暗黙のルールを共有しています。この「節度ある応援」こそが、テグンギルという文化を長く支えている秘訣と言えるでしょう。
■「短いからこそ美しい」推し活の醍醐味
20秒という時間は、客観的に見れば一瞬です。しかし、そのために費やした30分の待ち時間、そして劇場で感動を味わった数時間を含めれば、それは長い物語のクライマックスでもあります。
日本ではなかなか体験できないこのテグンギル文化。もし皆さんが韓国旅行で大学路を訪れる機会があれば、劇場の外で整然と待つファンたちの姿を見かけるかもしれません。それは





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