韓国歌謡界の黄金期を支えた、まさに「レジェンド」と呼ぶにふさわしい人物がこの世を去りました。
1980年代の韓国音楽シーンを彩った数々のヒット曲を生み出し、国民的歌手チョー・ヨンピル(조용필)をはじめとする多くのスターたちの楽曲を手掛けた編曲家であり作曲家のキム・ヨンニョン(김용년)氏が、2月25日夜、惜しまれつつ息を引き取りました。享年82歳でした。
今回は、現在のK-POPの礎を築いた世代の一人であるキム・ヨンニョン氏の足跡と、彼が韓国の人々にどれほど愛される名曲を世に送り出してきたのか、その背景とともにご紹介します。
■ 音楽に捧げた一生、3700曲に及ぶ膨大なアーカイブ
キム・ヨンニョン氏の訃報は、突然の心停止によるものでした。遺族によると、亡くなった当日、彼は韓国音楽著作権協会が主催する「著作権大賞」の行事に出席。その帰り道、自宅近くで倒れたといいます。
彼は生涯で、作詞・作曲・編曲を合わせて実に3700曲あまりの作業に携わりました。「音楽しか知らない、とても謙虚な人だった」と遺族が語る通り、晩年に病を患い、テレビから自分の作った曲が流れてきた際にも「あれは私が作った曲だよ」と嬉しそうに話すほど、心から音楽を愛した人物でした。
1944年にソウルで生まれた彼は、1969年にベトナム駐留米軍のショー公演のために結成された6人組ロックバンド「ローリング・シックス」のオルガン奏者としてキャリアをスタートさせました。
当時、ベトナムでの米軍慰問公演は、韓国のミュージシャンにとって「実力を磨く最高の登竜門」とされていました。ここで磨かれた卓越した演奏技術とポップスのセンスが、後の韓国歌謡界における彼の独創的な編曲スタイルの源泉となったのです。
■ チョー・ヨンピルからトロットの名曲まで。韓国人が愛してやまない「あのメロディ」
キム・ヨンニョン氏の名前を語る上で欠かせないのが、1980年代の爆発的なヒット曲の数々です。彼は稀代のスター作曲家であるキム・ヒガプ(김희갑)氏とコンビを組み、韓国音楽史に残るマスターピースを次々と誕生させました。
特に、日本でも「歌王(カワン)」として知られるチョー・ヨンピルの代表曲『キリマンジャロの豹(킬리만자로의 표범)』や『あの冬の喫茶店(그 겨울의 찻집)』の編曲は、今もなお語り草となっています。
『キリマンジャロの豹』は、イントロからドラマチックな独白が続く、歌謡曲の枠を超えた大作です。こうした複雑でメッセージ性の強い楽曲を、大衆の心に響く形にまとめ上げたのがキム・ヨンニョン氏の編曲の力でした。
他にも、日本人のファンにも馴染み深い名曲が並びます。
・チェ・ジニ(최진희)の『愛の迷路(사랑의 미로)』:北朝鮮でも広く愛されていることで有名な、韓国を代表するバラード。
・キム・スヒ(김수희)の『南行列車(남행열차)』:韓国のプロ野球の応援歌としても定番の、国民的盛り上がりソング。
・テ・ジナ(태진아)の『オッキョンイ(옥경이)』:切ない愛を歌ったトロット(韓国の演歌)の金字塔。
これらの楽曲は、現在活躍しているアイドルたちがカバーすることも多く、世代を超えて愛され続けています。もし皆さんが韓国のカラオケやバラエティ番組で「どこかで聴いたことがある懐かしいメロディ」に出会ったとしたら、それはキム・ヨンニョン氏の手掛けた魔法かもしれません。
■ 晩年の試練と、音楽への情熱が遺したもの
華やかな経歴の一方で、キム・ヨンニョン氏の晩年は決して平坦なものではありませんでした。2017年には自宅兼スタジオで火災が発生し、彼が一生をかけて集めてきた膨大な音楽資料や楽譜がすべて焼失するという悲劇に見舞われました。
そのショックもあり、短期記憶喪失や糖尿病などで闘病生活を送ることとなりましたが、それでも彼の音楽に対する誇りが消えることはありませんでした。
また、彼の息子であるキム・ドンゴン(김동건)氏は、映画『アニケン(애니깽)』やドラマ『天使の誘惑(천사의 유혹)』に出演した俳優としても知られており、親子二代で韓国のエンターテインメント界に貢献してきました。
キム・ヨンニョン氏が手掛けた3700曲という数字は、単なる記録ではありません。それは、激動の時代を生きた韓国の人々の喜びや悲しみに寄り添い、共に歩んできた「心のサウンドトラック」の数なのです。
現在の華やかなK-POPシーンも、こうした偉大な先人たちが築いた豊かな音楽的土壌があってこそ成り立っています。巨星は墜ちましたが、彼が編曲した美しい旋律は、これからも韓国の街角で、そしてファンの心の中で鳴り続けることでしょう。
謹んで故人のご冥福をお祈りいたします。
出典:https://www.khan.co.kr/article/202602262132015
『愛の迷路』や『南行列車』など、皆さんも一度は耳にしたことがある曲があったのではないでしょうか? 時代を超えて愛される名曲の裏には、こうした偉大な編曲家の情熱が隠されています。皆さんが好きな「韓国の懐メロ」や、カバーしてほしい曲があれば、ぜひコメントで教えてくださいね。
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